学部・大学院

表現文化学専修

「表現文化学」は、その名称にあるように「文化」を対象とする研究のセクションまたアプローチです。もちろん、あらゆる人文学の研究領域は何らかのかたちで人間の作り出した「文化」を研究対象としているわけですが、「表現文化学」は次のようないくつかの特徴において従来の文化研究とは異なるスタンスをとることになります。

1.トランスナショナルな文化のダイナミズムへの視点

従来の伝統的な人文学、たとえば、英文学・独文学・仏文学・中国文学・国文学などの学問分野では、なによりも「言語圏」、そしてそれに依拠することになる「文化圏」が研究領域を区切る枠組みとなっていました。こうした「国語」を基礎にした文化研究は、近代の「国民国家」の枠組みを暗黙の前提としており、国民文化のカノンあるいは古典と結びついた規範的な文化概念に依拠してきました。しかし、今日のグローバル化の進展は、文化の担い手たる個人や集団のモビリティの上昇をもたらし、従来の国民国家の枠組みには回収しえない文化生産のダイナミズムを生み出しています。「表現文化学」は、特定の言語圏・文化圏の内部に限られた文化現象の研究を排除するものでは決してありませんが、複数言語圏や複数の文化圏を横断しつつ研究する視点をもちうるという重要な特徴を持っています。こういった立場は、これまで「比較文化研究」や「比較文学研究」などのかたちで行われている研究を継承するものですが、トランスナショナルな文化の力学を考察する諸理論を積極的に吸収しながら、それら先行する研究分野を更新・発展させることを目指しています。

2.さまざまな〈表象〉の形式への視点

伝統的な人文学の諸領域においては、「言語」によって形作られた文化的営為が「テクスト」として研究の中心的対象となってきました。それに対して、「表現文化学」では、言語にもとづく文化的表現だけでなく、映像、音響、身体表現などあらゆるメディウムに依拠する文化現象が分析の対象となりえます。ただし、そのことは文字による表現形式を研究の中心的な対象としないという意味ではありません。近年ますます広く用いられるようになっている「表象文化」という言葉によって意図されていることが、ここでは重なり合ってきます。またそうした多様な表象形式への視点は、それらの異なる表象形式の間の比較という観点をも含んでいます。たとえば、小説とゲーム、演劇と映画の間の表現形式・知覚形式の比較考察も表現文化学のアプローチのひとつです。

3.ポピュラーな文化現象への視点

すでに述べたように、従来の文化研究においては、国民国家とならんで規範的な文化概念(国民文化のカノンまたは古典)が前提されていました。したがって、従来の人文学では、基本的に「高級文化」や「芸術」と見なされているものがその特権的な対象となってきました。この点についても、「表現文化学」は対象領域と研究アプローチの拡張をもたらします。「表現文化学」では、伝統的な人文学において文化的対象として十分に取り上げられことがなかったサブカルチャー、ポップカルチャー、モード、広告、身体表現などをも重要な研究対象とするということです。また、そうした対象を考察するのにふさわしい方法論を探求します。この点で表現文化学は「カルチュラル・スタディーズ」として知られる立場とも深く関わります。ただし、このことは「表現」を切り口としていわゆる「高級文化」と見なされているものを研究することを排除するものではありません。

4.現代的・理論的視点

「表現文化学」のもう一つの重要な特徴は、たとえある程度過去にさかのぼる文化現象を対象とするにせよ、その対象を単に過去のものとして研究するのではなく、現代におけるアクチュアリティに結びつけていく視点から取り上げるということです。その意味で、現代の批評理論・文化理論そのものも、研究上の立場としてつねに立ち返るべきものとして考察されるだけでなく、理論自体も研究の対象となります。

5.表現文化学専修の授業

表現文化学専修に所属する前期博士課程(修士)の院生は、各専任教員が担当する「表現文化学研究」および「表現文化学研究演習」を履修します。これらの授業では、各教員の専門分野にもとづいて、作品や理論の購読や議論が行われます。修士課程の院生は他専修の授業も履修しながら、みずからの修士論文に必要な知見を学んでいきます。加えて、教員のカバーできない分野については、非常勤講師の先生による講義科目も開講されています。後期博士課程の院生は、主に教員の指導を受けながら、みずからの研究を進めます。基本的には学会発表と学術誌への論文の執筆を経て、博士論文を仕上げることを目指します。なお大学院生全員が参加し、それぞれの研究テーマについて報告を行う科目として、「表現文化総合研究」が設定されています。この授業には全教員が参加し各院生の研究に助言することで、複数指導体制が確保されています。

6.修了後の進路

前期博士課程(修士)では一般企業、教員、公官庁などに就職する場合が多いですが、後期博士課程に進学する院生も一定数います。後期博士課程を修了した院生は、研究職への就職を目指してポスドクのポジションに就いたり、NPOなどの団体職員に就職したりしています。

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スタッフ

野末紀之 教授 19世紀末文化論、身体・セクシュアリティと芸術表現
高島葉子 教授 比較文学・比較文化、民間説話・民間伝承(特に妖精伝承)の比較文化的研究。
増田聡 教授 ポピュラー音楽研究、大衆文化研究、文化所有論(著作権、作者論など)
海老根剛 准教授 文化理論、映像論、ドイツ研究、表象文化論。

刊行物

表現文化 表現文化学専修・表現文化コースでは、教員や大学院生からなる表現文化学研究成果を発表する学術誌として査読誌『表現文化』を刊行しています。『表現文化』は機関リポジトリで公開されています。