2021年度文学研究科プロジェクト

「芸能文化資料の基礎整備と研究活用─上方文化の研究拠点形成をめざして」

研究代表者:奥野久美子

研究概要

 本研究は、芸能文化研究の環境整備を目的とし、𠮷沢英明氏の数万点の芸能文化資料コレクションの本学への受入れと整備、一部資料のデジタル化、および研究活用を目的とする。
 𠮷沢英明氏は、約半世紀にわたり講談など大衆演芸の研究を続け、資料を蒐集してきた研究者であり、講談本を中心とするその蔵書である「𠮷沢コレクション」は、質・量ともに他の追随を許さない大衆芸能史の研究資料である。文学研究科では2021年度、𠮷沢氏よりこのコレクションの寄贈を受けた。
 これまで、学界・演芸界は𠮷沢氏の研究の恩恵を受けてきたが、その蔵書を閲覧するには個人的に𠮷沢氏にお願いし、見せていただくほかなかった。今回の寄贈を機に「𠮷沢コレクション」を整備し、検索可能な目録を作成し、広く利用できるようになれば、学界・演芸界が受ける恩恵ははかり知れない。

研究メンバーと資金

 研究代表者は奥野久美子(文学研究科 国語国文学・准教授)、共同研究者は次の諸氏である。

佐賀 朝(文学研究科 日本史学・教授)
久堀 裕朗(文学研究科 国語国文学・教授)
菅原 真弓(文学研究科 文化資源学・教授)
海老根 剛(文学研究科 表現文化学・准教授)
森 節男(UCRC研究員) 西田 正宏(大阪府立大学人間社会システム科学研究科・教授)

 加えて本学杉本図書館の協力のほか、学外からも高橋圭一氏(元大阪大谷大学教授)、橋本唯子氏(和歌山大学准教授・同大図書館副館長)にも本研究への助言や協力を得ている。
 数万点の資料受贈という大規模な事業であるため、2021年度には、文学研究科プロジェクト研究助成の以外に、2つの学内研究助成を受けた。女性研究者支援室の2021年度連携型共同研究助成と、都市研究プラザの先端的都市研究拠点2021年度「共同利用・共同研究事業」である。本プロジェクトはこれらの学内共同研究とも連携して進められた。

これまでの経過と成果

 2021年7月と8月に埼玉県上尾市にある吉沢氏の自宅書庫にプロジェクトメンバー数名が出張し、資料の収蔵状況調査・選別をしたうえで、8月末に受贈資料を杉本キャンパスと中百舌鳥キャンパス(旧大阪府立大学)の上方文化研究センターに分割する形で搬入した。
 受贈資料はダンボール等で合計667箱に及んだ。その後は虫害対策等の資料保管環境を整えながら、目録作成作業を順次、進めている。
 斯界随一の蒐集家であり研究者である吉沢氏のコレクションの一括受贈は、学界への影響も大きいため、2022年2月に広報課を通じて大学HPで受贈を公表した。

 

 また2022年2月20日(日)に、大阪在住の上方講談師、旭堂南海師を招き、𠮷沢コレクション受贈を記念した報告イベントをオンライン(zoom)で開催した。学内や関係者に限った小規模なイベントとして企画したが、当日は参加者60名を超える盛況で、𠮷沢コレクションへの学界の関心の高さがうかがわれた。また、南海師をはじめとする現役の講談師が、講談の創作に活用するために𠮷沢コレクションの整備公開を待ち望んでいることも明らかにされ、コレクションが今後、学界のみならず演芸界でも活用されることが大いに期待された。
 この報告会の様子は、都市研究プラザの先端的都市研究拠点2021年度「共同利用・共同研究事業」成果報告ブックレット『上方・大阪都市文化の研究拠点形成―大学アーカイブの整備と発信―』(西田正宏・奥野久美子編 2022年3月刊)で報告している。受け入れの経過や作業の詳細についても、同書を参照されたい。
 「概説:講談本について」と「𠮷沢コレクションの世界」では、同コレクションや講談本の概要やその魅力について写真入りで解説しているので、参照されたい。