大阪市立大学大学院文学研究科日本史研究室

教員について

経歴

kishimoto.JPG塚田 孝(つかだ たかし)

1954年7月17日生(福井県鯖江市の出身)

大阪市立大学大学院文学研究科 教授

メールアドレス:

  • 1978年東京大学文学部卒業
  • 東京大学史料編纂所助手を経て1988年より大阪市立大学文学部に勤務
  • (1993年、博士(文学)の学位取得)
  • 現在、大阪市立大学大学院文学研究科 教授

研究

主な研究テーマ

  • 近世の都市社会史 近世大坂の都市下層民衆の生活世界や勧進宗教者のあり様を研究、また、法と社会という視点からの都市社会分析の方法を探究。
  • 近世の地域社会構造 主に泉州の松尾寺や槙尾山などの一山寺院を含む地域の社会構造を研究。歴史学のあり方として「地域社会の全体史」や「地域史の固有性と普遍性」について探求。
  • 身分的周縁論  近世社会を諸社会集団の重層と複合として捉える視点から、新たな近世身分社会像を探求。その際、政治社会レベルと生活世界レベルを統一的に捉えることに留意。
  1. 以上に上げたように、近年は、大坂を中心とする都市社会史、和泉地域を対象とする地域社会構造史、身分的周縁論を主たるテーマとして、研究を進めている。これらは、都市、在地社会、仲間(身分)集団を主たる対象とするという違いはあるが、過去の歴史社会に生きた人々の固有の価値を掬い取ろうとする点で共通し、その際、地域に即して社会関係・社会構造を総体的に把握する方法は共通している。これらの研究を進めるにあたって、さまざまな人びととの共同研究を組織しているのが、特徴である。また、和泉市教育委員会との合同調査(後述)は、一つの近世村を対象に、時代・分野を越えて、「歴史的な総合調査研究」をめざしており、こうした歴史学の思想と方法を鍛える場として大きな意味を持っている。
  2. ここ10数年ほど、都市社会史研究を中心として比較史を目的とした国際交流の経験を持つことができた。一方で、近年、欧米で日本近世史を研究する若手の研究者たちと、史料の読解から歴史方法論のレベルまで含めた、かつ継続的な討論が可能となるような条件が広がり、新たな質の国際交流が可能になった。これにより、広い分野の研究者との比較史的な対話と共通する分野の研究者との深く継続的な共同研究の二方向からの国際交流が進められるようになり、研究にも裨益するところが大きいように感じている。

学会・研究会活動

  • 【研究会活動】
    • 日本学術会議連携会員(2011年10月~)
    • 歴史科学協議会代表理事(2011年11月~)
    • 大阪歴史科学協議会委員(2012年6月~)
    • 都市史学会常任委員(2013年12月~)

現在、近世大坂研究会を基盤に多様な共同研究を実施している。これまでも「身分的周縁」研究会などで共同研究を組織し、都市史研究会(ぐるーぷとらっど)や遊廓社会研究会の共同研究にも参加。

主要業績

  • 単著
  1. 1987年11月 『近世日本身分制の研究』 兵庫部落問題研究所
  2. 1992年12月 『身分制社会と市民社会-近世日本の社会と法-』 柏書房
  3. 1996年5月 『近世の都市社会史-大坂を中心に-』 青木書店
  4. 1997年11月 『近世身分制と周縁社会』 東京大学出版会
  5. 2000年4月  『身分論から歴史学を考える』 校倉書房
  6. 2001年11月 『都市大坂と非人』 山川出版社
  7. 2002年9月  『歴史のなかの大坂』 岩波書店
  8. 2006年6月 『近世大坂の都市社会』 吉川弘文館
  9. 2007年3月 『近世大坂の非人と身分的周縁』部落問題研究所
  10. 2010年11月 『近世身分社会の捉え方―山川出版社高校日本史教科書を通して―』部落問題研究所
  11. 2013年10月 『大坂の非人-乞食・四天王寺・転びキリシタン-』ちくま新書
  12. 2015年3月 『都市社会史の視点と構想-法・社会・文化-』清文堂出版
  • 編書
    • 1994年   『身分的周縁』(脇田修・吉田伸之・塚田孝共編)部落問題研究所
    • 2000年6~11月『シリーズ近世の身分的周縁』1~6(久留島浩・高埜利彦・塚田孝・横田冬彦・吉田伸之共編)吉川弘文館
    • 2001年2月 『近世大坂の都市空間と社会構造』(塚田孝・吉田伸之共編)山川出版社
    • 2004年3月 『大阪における都市の発展と構造』(塚田孝編)山川出版社
    • 2005年3月 『東アジア近世都市における社会的結合-諸身分・諸階層の存在形態-』(井上徹と共編)大阪市立大学文学研究科叢書3、清文堂出版
    • 2005年3月 和泉市史編さん委員会編『和泉市の歴史1 横山谷と槇尾山の歴史』(共編著)、和泉市教育委員会
    • 2006年12月 『身分的周縁と近世社会4 都市の周縁に生きる』(塚田孝編)吉川弘文館
    • 2007年9月 『近世大坂の法と社会』(塚田孝編)清文堂出版
    • 2008年3月 『身分的周縁と近世社会9 身分的周縁を考える』(共編書)吉川弘文館
    • 2008年3月 和泉市史編さん委員会編『和泉市の歴史2 松尾谷の歴史と松尾寺』(共編著)、和泉市教育委員会
    • 2010年6月 『身分的周縁の比較史―法と社会の視点から―』(塚田孝編)、清文堂出版
    • 2011年9月 和泉市史編さん委員会編『和泉市の歴史3 池田谷の開発と歴史』(共編著)、和泉市教育委員会
    • 2014年3月 『近世身分社会の比較史-法と社会の視点から-』(佐賀朝・八木滋と共編)大阪市立大学文学研究科叢書8、清文堂出版
    • 2015年3月 和泉市史編さん委員会編『和泉市の歴史4 信太山地域の歴史と生活』(共編著)、和泉市教育委員会
  • 主要論文(2006年~)
    • 主要論文(2006年以降の主要論文のみあげる)
    • 「近世身分制社会という捉え方-朝尾直弘氏の近世社会論-」『部落問題研究』176、2006年6月、44-70頁
    • 「都市の周縁に生きる-17世紀の大坂・三津寺町-」前掲 『身分的周縁と近世社会4 都市の周縁に生きる』185-232頁
    • 「宿と口入」原直史編『身分的周縁と近世社会3 商いがむすぶ人びと』吉川弘文館、2007年6月、161-189頁
    • 「近世大坂の法と社会」塚田編『近世大坂の法と社会』清文堂出版、2007年9月、3-46頁
    • 「地域史研究と現代-和泉市松尾地域を素材に-」『人民の歴史学』177、2008年10月、1-22頁
    • 「都市法」吉田伸之編『伝統都市2 権力とヘゲモニー』東京大学出版会、2010年5月、37-67頁
    • 「近世大坂における芝居地の≪法と社会≫―身分的周縁の比較類型論にむけて―」塚田孝編『身分的周縁の比較史―法と社会の視点から―』清文堂出版、2010年6月、3-28頁
    • 「一九世紀大坂の非人身分―代勤願いと病気療養願いから―」『部落問題研究』194号、2010年11月、30-44頁
    • 「近世後期・大坂における非人の「家」」高澤紀恵、吉田伸之、フランソワ=ジョゼフ・ルッジウ、ギョーム・カレ編『伝統都市を比較する―飯田とシャルルビル―』山川出版社、2011年6月、136-152頁
    • ‘Les religieux mendients d’Ôsaka durant la période prémoderne,’ Annales. Histoire, Sciences Sociales, 66e année (2011) - no 4, pp.1053-1077. (タイトル翻訳「前近代大坂における勧進宗教者」)
    • ‘Introduction The Urban History of Osaka,’ City Culture and Society(CCS) “The Urban Social History of Osaka: A Study Focusing on the Lifeworld of the Urban Masses” 3-1 (2012), pp.1-8
    • ‘The Hinin and City Neighborhoods of Nineteenth-Century Osaka,’ City Culture and Society(CCS) “The Urban Social History of Osaka: A Study Focusing on the Lifeworld of the Urban Masses” 3-1 (2012), pp.59-64.
    • 「近世大坂の垣外仲間と四天王寺」塚田孝・吉田伸之編『身分的周縁と地域社会』山川出版社、2013年3月、5-41頁
    • 「地域史の固有性と普遍性をめぐって」『地域史の固有性と普遍性(第3回地域史惣寄合・第五回地域学シンポジウム報告書)』佐賀大学地域学歴史文化研究センター、2013年3月、102-112頁
    • 「「孝子」褒賞にみる遊女と茶立女」佐賀朝・吉田伸之編『シリーズ遊廓社会1 三都と地方都市』吉川弘文館、2013年8月、127-151頁
    • 「17世紀後期・大坂における非人の〈家〉」塚田孝・佐賀朝・八木滋編『近世身分社会の比較史-法と社会の視点から-』清文堂出版、2014年3月、193-218頁
    • ‘Early Modern Osaka Hinin and the Population Registers’,in D.Chapman and K.J.Krogness(eds), Japan’s Household Registration System and Citizenship:Koseki, Identification and Documentation, London: Routledge. (March 2014), pp.21-42.
    • 「近世大坂の身分的周縁」『思想』1084(2014年第8号)、2014年8月、46-63頁

研究報告(2006年~)

日付 研究会名 論題
2006年4月29日「近世大坂の法と社会」近世大坂研究会・都市史研究会・COE大阪プロジェクト・重点研究共催シンポジウム《近世大坂の法と社会》、大阪市立大学学術情報総合センター文化交流室、4月29日・30日
2006年8月6日「17世紀・大坂の都市像の再検討」北陸都市史学会29回大会(福井大学・記念講演)
2006年9月30日「問題提起:都市に対する歴史的アプローチと社会的結合」COE国際シンポジウム分科会(大阪市立大学全学共通教育棟820教室)
2007年4月22日「大坂町触と惣年寄・惣代」法制史学会第59回総会、大阪市立大学 杉本キャンパス 法学部棟3階 730教室
2007年5月19日「問題提起:地域史の思想と方法」市大日本史学会第10大会シンポジウム《地域史の思想と方法》大阪市立大学学術情報総合センター文化交流室
2007年11月11日「近世都市史研究と江戸」シンポジウム《日本・中国近世の都市生活》台湾中央研究院歴史語言研究所・京都大学人文科学研究所共催(11月11・12日)、京都大学人文科学研究所大会議室
2008年4月27日「地域史研究と現代-和泉市松尾地域を素材に-」東京歴史科学研究会2008年度大会、明治大学リバティタワー8F1083教室
2010年5月15日「近世身分社会の再把握」大阪市立大学日本史学会第13回大会講演、大阪市立大学学術情報センター文化交流室
2010年7月11日「地域史と大学教育―合同調査の経験から―」第2回地域史惣寄合、兵庫県姫路市・日本城郭研究センター
2010年9月25日「日本近世身分社会の特質―大坂の非人を事例に―」上海師範大学中国近代社会研究中心・大阪市立大学大学院文学研究科連合主催第2回国際学術検討会《中日両国の伝統都市と市民生活》、上海師範大学文苑楼708室
2010年10月24日「都市大坂における非人と町方:再考」第48回部落問題研究者全国集会 歴史Ⅰ部会《近世都市における非人身分研究の発展をめざして》、同志社女子大学・今出川キャンパス
2011年7月17日「廣川和花『近代日本のハンセン病問題と地域社会』を読む-地域史の立場から-」大阪歴史科学協議会7月例会《近代ハンセン病史研究の新たな地平-廣川和花『近代日本のハンセン病問題と地域社会』をめぐって》、福島区民センター301会議室
2011年7月30日「比較史の発展に向けて―訳語問題から近世社会を掘り下げる―」近世大坂研究会など共催国際円座《訳語問題から近世社会を掘り下げる》、大阪市立大学第4会議室
2011年8月11日「道頓堀南部地域の開発と難波村」明清史夏合宿2011研究企画《伝統都市の形成》、聖護院宿坊御殿荘
2011年10月29日「韓嬉淑「朝鮮時代の白丁の境遇と抵抗」によせて―日本近世のえた身分・非人身分研究の立場から―」第11回日韓歴史家会議《社会最下層に対する比較史的考察》(10月28~30日)、韓国ソウル、世宗ホテル
2011年11月6日「近世大坂の垣外仲間と四天王寺」史学会大会近世史部会シンポジウム《身分的周縁と地域社会》東京大学法文2号館2番大教室
2011年12月7日「日本近世都市史研究の展開と大坂」上海大学文学院主催《大阪市立大学教授塚田孝系列讲座―历史系―》第一回講演、上海大学文学院A602
2011年12月8日「一九世紀・都市大坂の非人と町方」上海大学文学院主催《大阪市立大学教授塚田孝系列讲座―历史系―》第二回講演、上海大学文学院A602
2011年12月11日「大学と地域歴史文化―大阪市立大学日本史研究室の取組み―」神戸大学大学院人文学研究科・同地域連携センター主催平成二三年度特別研究プロジェクト国公立大学フォーラム《地域歴史文化の育成支援拠点としての国公立大学―地域歴史遺産の保全・活用と防災―》、神戸大学瀧川記念学術交流会館
2012年1月29日「和泉地域の開発と村落の変容」大阪市立大学大学院文学研究科重点研究シンポジウム《消え行く森、生まれ変わる森―森の近代を問う》、エルおおさか701号室
2012年3月1日「都市社会史の方法」上海大学文学院・大阪市立大学大学院文学研究科共催国際シンポジウム《東アジアにおける都市社会史への視点―上海と大阪を中心に―》、上海大学楽乎新楼
2012年3月27日「近世大坂の非人と人別帳」イェール大学東アジア研究委員会主催:特別シンポジウム「City and Region in Japanese History」セッション2「The City in History: Osaka in the 19th Century」R401, Hall of Graduate Studies
2012年3月28日「都市史としての大坂:再考」イェール大学東アジア研究委員会主催:特別シンポジウム「City and Region in Japanese History」セッション3「Current Trends in Japanese History」R202, Henry R.Luce Hall
2012年7月12日“Early Modern Osaka Hinin and Population Registers” University of Western SydneyPanel- Counting on the Margins: Population Registration in Eerly Modern/Modern Japan, Asian Studies of Australia 19th Biennial Conference 2012 (July 11-13)
2012年7月24日「近世大坂の垣外仲間と人別」台湾中央研究院近代史研究所‧大阪市立大學都文化研究中心(都市文化研究センター)共催國際學術研討會「近代東亞城市的社會群體與社會網絡」(7月24~25日)、近代史研究所檔案館中型會議室
2012年11月3日「伝統都市と現在-吉田伸之著『伝統都市・江戸』によせて-」大阪歴史科学協議会11月例会《伝統都市と現在―吉田伸之著『伝統都市・江戸』をめぐって―》、クレオ大阪中央研修室
2012年12月1日「問題提起:都市における貧困と救済-身分的周縁の比較史へ-」近世大坂研究会・大阪市立大学都市研究プラザ都市論ユニット・大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター共催:国際円座《都市における貧困と救済》(12月1~2日)、大阪市立大学経済学部棟2F第4会議室
2012年12月9日「地域史の固有性と普遍性をめぐって」第3回地域史惣寄合(呼びかけ人:青木歳幸・奥村弘・塚田孝・吉田伸之/12月8~9日)、佐賀大学地域学歴史文化研究センター
2013年1月10日「大坂の都市社会史への視点-住民生活の基礎単位としての「町」-」シンガポール国立大学日本研究学科主催ワークショップ《日本史研究と教育訓練-理論と実践-》(1月10~11日)、シンガポール国立大学日本研究学科R28
2013年8月24日「17世紀後期・大坂における非人の〈家〉」近世大坂研究会・大阪市立大学都市研究プラザ都市論ユニット・大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター共催:総括円座《近世身分社会の比較史-法と社会の視点から-》、大阪市立大学経済学部棟第4会議室
2013年9月18日「日本の地域史研究と史料調査」上海大学文学院主催講演会、上海大学文学院A602
2013年11月22日<論評へのリプライ>日仏二国間交流事業・セミナー《空間・身分・制度-日仏都市史のパースペクティブ》第1部「日本近世の社会と身分-Annales 日本近世史特集の論評」、パリ第4 大学(ソルボンヌ)、ロラン・ムニエ研究所、G647 号室
2013年12月1日「新安井家文書発見の意義」大阪歴史博物館・大阪市立大学大学院文学研究科共催:シンポジウム《道頓堀の開発と芸能》、大阪歴史博物館講堂
2013年12月7日「都市社会史の方法-日本近世都市史研究の展開と大坂-」大阪市立大学大学院文学研究科主催:「頭脳循環」総括シンポジウム《東アジア都市における集団とネットワーク-伝統都市から近現代都市への文化的展開-》(12月6・7日)、大阪市立大学学術情報センター文化交流室・AVホール
2014年1月8日「近世大坂の非人の〈家〉と人別」上海大学文学院・大阪市立大学大学院文学研究科共催:国際シンポジウム「都市社会史の方法と実践-中国と日本の比較を通じて-」(1月8~9日)、上海大学楽乎新楼
2014年2月7日「近世大坂の非人の〈家〉と人別」釜山大学校韓国民族文化研究所・大阪市立大学都市文化研究センター共催:第4回共同学術会議《中世・近世における都市の姿と生-韓国と日本の事例-》、釜山大学校 仁徳館 大会議室
2014年3月6日「垣外仲間の由緒と四天王寺」近世大坂研究会・大阪市立大学都市研究プラザ都市論ユニット・大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター・都市史学会・日仏二国間交流事業セミナー共催:国際円座《伝統都市の比較類型史-日本とフランスの場合-》(3月6~7日)、大阪市立大学高原記念館1F交流スペース
2014年6月14日「地域史認識の深化-大阪歴科協と和泉市史での経験から-」大阪歴史科学協議会創立50周年記念2014年度大会《歴史学の新段階に向けて》(6月14・15日)、関西大学千里山キャンパス第一学舎一号館A301教室
2014年7月18日“Hinin Group Formation and Subsistence Conditions in Early Modern Osaka”AAS in Asia(7月17-19日)、シンガポール国立大学
2015年3月28日「『両替商 銭屋佐兵衛』によせて」逸身家文書研究会《書評円座:『両替商 銭屋佐兵衛』を読む》、東京大学・本郷キャンパス・法文1 号館113 番教室

歴史学へのとりくみ

A)次に載せる文章は、まだ若い時期に書いたものですが、わたし自身の歴史学に対するスタンスを短く表現して、わりと愛着があります。みなさんに歴史学の楽しさが少しでも伝わればと思います。なお、当時、大坂の都市史研究は立ち遅れていると書いていましたが、現在では大坂の都市史研究が近世都市史研究全体をリードしています。

《日本近世史》名もなき民衆の営為から成り立つ
1.魅力
私は近世日本に生きた人々の社会史を勉強しているが、歴史のかげで、ひっそりと、しかも懸命に働き、誠実に生きた人々に無限の価値を見出しうるような歴史 学でありたいといつも思っている。ふつうに暮らし、生き、そして死んでいった多くの民衆-それは被支配人民と言ってもよい-は、歴史に名を残していないのがふつうである。もちろん、そうした民衆が、みな善人であったとか、利害にとらわれていなかったとか、という楽観的なことを考えているわけではない。些細なことに一喜一憂し、また、時には他者と対立したりしながらも、したたかにかつ誠実に生きた人々の生をそれ自体として意味あるものと受けとめたいのである。そうした人々が歴史をつくってきたのであり、それを明らかにすることはとても楽しい。

2.研究テーマ
私は、大学の卒業論文で江戸の非人を取り上げて以来、関八州えた頭弾左衛門支配下のえた身分・非人身分のことを研究し、その後、江戸の目明かしや吉原など 都市民衆が形成する社会の構造の解明に取り組んできた。それは全体としていえば、身分制社会として特質づけられる近世社会、とりわけ都市の社会研究史で あったといえよう。

大阪の職場に移ってから、少しずつ大坂(近世には”坂”と書く)の研究に手をつけ始めた。これまでに、大坂の渡辺村(えた身分の村)を中核とする西日本の牛馬皮の流通や、大坂の茶屋と新地開発などについての論考を書いたが、これも自分では都市社会史のつもりである。

ところで、1980年代から、江戸・京都を中心に都市社会史研究は著しい進展をみせた。大坂も江戸・京都とならぶ巨大都市であるが、私の見るところでは都市社会史研究という点では立ち遅れた状況にあるように思う。大坂についてはまだまだ都市社会史の研究が必要であり、それだけに可能性が大きいように思う。そんなわけで、これからしばらく大坂の研究に取り組んでみようと考えている。

さしあたって今考えているのは、大坂を特質づける存在のひとつである蔵屋敷について再検討してみようということである。言うまでもなく蔵屋敷は西国 を中心とする諸藩が、大坂市場での年貢米販売のためにおいた施設である。そこには町人の名代(屋敷地の名義人)や蔵元・掛屋などがおかれ、かれらは有力な 両替商である場合が多く、大名貸を行う諸藩の財政と深くかかわる存在であった。

これが蔵屋敷についての常識であろうが、都市社会の中に蔵屋敷をおいた場合にはこれだけでは不十分である。たとえば、福岡藩の皮座の受持人が大坂町奉行所へ公訴された時、町奉行所から蔵屋敷に召喚の指示がいき、そこから国元に通達されている。つまり、大坂町奉行が西日本の広域におよぶ行政=司法の権限を行使しようとする時、蔵屋敷は重要な結節点となるのである。また、その時の訴訟一件の経過を見ると、蔵屋敷には館入と称する恒常的な関係をもつ奉行所与力がおり、また福岡藩蔵屋敷が所在する中之嶋白子嶋町の町会所が交渉場所となり、町代(町用を弁ずる町の雇用人)が交渉経過に深くかかわっている。さらに、それだけでなく名代・蔵元・掛屋に限らない多様な商人が蔵屋敷に出入りしていた姿がうかがえるのである。以上のような大坂町奉行の広域行政=司法の結 節点としての蔵屋敷の役割、あるいは、蔵屋敷を極とする多方向の社会関係の展開などは、巨大都市・大坂の社会構造を考えるうえでの重要な一環として注目されてよいであろう。

3.学び方
かつて安丸良夫氏は、「こうして私は、学問の世界でははじめはいくぶん突飛にみえたかもしれない独自の考えをもつようになるとともに、社会や人生について も、しだいに容易にはゆずることのできないいくつかの論点をもつようになり、要するに私自身になっていった」(『日本の近代化と民衆思想』293~4ペー ジ)と言われた。これは、歴史学の営為を簡潔に表現していると言えるのではなかろうか。“私自身になる”ということを歴史学の営為として考えた場合、二つの側面がある。ひとつは、歴史学は自分の生き方や社会の観方と不可分ということであり、もうひとつは、しかしそれは想像力の自由な飛翔によるものではないということである。つまり、歴史学は、自己の価値観と無縁ではありえないが、また歴史は研究者個人の思惟をこえて客観的に実在したのであって、これとの緊張関係を保持することが不可欠である。言いかえれば、歴史的事実に謙虚であるべきだということである。史料によって事実を発見し、自己をこえた歴史に即しながら、自己の価値観をつくりあげていくのであって、それが先に安丸氏が「私自身になってい」くと言われた過程なのであろう。その意味で、歴史学は実証科学なのである。

しかし、こうした自己の価値観と自己をこえた歴史との緊張関係を喪失すると、その歴史学は頽廃する。それは、戦前の皇国史観に典型が見られ、また先頃の戦後五十年の国会決議に見られる日本の行った侵略戦争への無反省にもつながってこよう。

ともあれ、私の場合、まだ二十年弱のわずかな営為にすぎないが、私には史料によって未知の歴史のひだにわけいって、新しい事実と論理を発見することがとても楽しいし、やわな想像力より、歴史の現実はずっと豊かであるとつくづく思う。(『歴史学がわかる。』AERA Mook10 1995年10月)

B)最近、書いた私の歴史に向かうスタンスを記した一文を以下に引用します。
A)の小文と比べて、20年、基本的に一貫したスタンスをとっているなと自己確認している次第です。
『大坂の非人』の終章より
現代でも仕事や住居を失い、生活困難な状況に陥ることは、グローバル化、新自由主義による「構造改革」によってさらに広がっているように見受けられる。そのような困難な状況にある人たちがどのように位置づけられるかは、その社会と文化の質によって規定されると言えよう。そうした人々が生み出されないよう、すべての人がそれぞれの一生を生きる人間としてのあり方を保証されるべきだと考えるのか、企業の競争力のために安価で一時的に消費される労働力(=モノ)として処理されるものと考えるのか、これらのことが問われているように、本書を書きながら考えている。
私は、歴史に名を残すこともなかった民衆の過去に生きた意味を掬い上げるような歴史学を志してきたが、またそれがおもしろいとも思ってきた。しかし、世間では「歴史」というと、天皇や公家、大名(特に私の周りでは戦国大名)や政治家、維新期の「志士」が活躍する「お話」、あるいは政治や戦争の勝ち負け、あるいは金持ちたちの成功譚などがイメージされているように思われる。しかし、歴史において過去の民衆の生きた意味を確認することは、現在を生きているわたし自身の生きる意味の自己確認である。困難な時代状況のなかで、多くの人たちが自分の生きた意味を見失っている現在、こうした歴史への向かい方もあることを伝えることができれば、これにすぎることはない。

C)2000年代に入って、学問・研究と大学を取り巻く状況は大きな変動にさらされています。その中で、私がどのように歴史学研究に取り組んできたかをふり返る一文を、近著『都市社会史の視点と構想-法・社会・文化-』の「あとがき」から引用しておきたいと思います。 『都市社会史の視点と構想-法・社会・文化-』の「あとがき」より  21世紀に入って、大学と社会をめぐる状況が大きく揺れ動いていく。否応なく、それらにも対応しなければならなかったが、それだからこそ、それまではあまり自覚することなく実践していた“共同の営為としての歴史学”を自覚的に進めることの意義を強く意識するようになっていった。  私が勤務する大阪市立大学大学院文学研究科では、2002年度から5年間にわたって21世紀COEプログラム「都市文化創造のための人文科学的研究」(拠点リーダー阪口弘之氏、のち栄原永遠男氏に交代)に取り組むことになった。当初、COEプログラムの研究組織はAチーム(比較都市文化史研究)、Bチーム(現代都市文化研究)、Cチーム(都市の人間研究)のチーム編成とし、この三つの方向から都市文化を考えていくことがめざされた。私はAチームに属し、日・東・西を通じた比較都市文化史を意識することとなった。 COE事業の中間評価による焦点を絞るべきとの指摘を受けて、2005年度から対象地域をアジアに集約することとなり、先の三つの方向性を保持しながら、地域別の大阪プロジェクト、中国プロジェクト、東南アジアプロジェクトの三つに改編された。私はもちろん大阪プロジェクトに属した。 COE事業と並行して、そのサポートのためにAチームに主軸をおいた学内の重点研究「都市文化創造のための比較史的研究」(2003~7年度)が認められたが、私はその研究代表を担うことになった。 COE全体の研究課題が、「都市文化創造」を掲げたこともあり、都市史研究を進めるにあたって「都市文化」を意識することになった。COE事業の開始のころ、歴史学として「都市文化」をどういう方向から考えるべきか、かなり熱っぽく議論したことが思い出される。その際、都市文化の担い手に注目することが良いのではないかということが話題に上っていた。 それに対して、私はAチームの最初の研究例会で、吉田伸之さんの「社会=文化構造」論の提起に示唆を受けながら、都市文化を都市の社会構造と結びつけて考えるべきだという問題提起(「都市における社会=文化構造史のために」)を行った。その具体化として、木村蒹葭堂について考えたり、芝居地の社会構造を考えたりした。これらの論考は、多くが歴史学以外の人たちをも含む場で話したものが基になっており、自ずから一般的な説明も含むことになった。 芝居地や芸能興行については、2003年度から始まった上方文化講座との関わりもあった。上方文化講座は、文学部50周年の記念事業の一環として始まり、市民にも開放された文学部共通科目(集中講義)として実施されたものである。毎年一つの作品を取り上げ、文楽の技芸員の実演と文学部教員による様々な関連テーマの講義で構成されている。私は、歴史の立場から毎年一コマ分話すことになった。最初の2~3年は作品の内容に関わらせて話していたが、そのうち大坂の芸能興行の周辺を話すようになったのである。 本書に収録した論考を見てもらえばわかるように、芸能や学文などの内容に及ぶことは私自身で研究を深める方向には向かわず、山口啓二先生や吉田さん、神田由築さんの研究を参照して、それを都市社会の全体把握の中に位置づける方向に向かった。 その一方で、文化を狭くとらえず、人々が暮らしていく暮らし方・生き方の総体を広く文化と捉えるべきではないかと考えるようになっていく。そうであれば、やはり文化は社会のあり方と不可分なのであって、吉田さんの社会=文化構造論の核心はここにあるのであろう。そうした文化を広く捉える理解に立って、人々が生きやすい都市社会をどう作るのかということこそが「都市文化創造」の内実ではないかと考える。そうしたことを強く思ったのは、近年よくみられる「町づくり」に文化や歴史を活かすと称して、その商品化・資源化を推奨する動きに違和感を感じたからでもある。歴史の商品化・観光資源化は、人間と歴史の全体性を切り刻み、矮小化することになるであろう。 COE事業のもたらしたもう一つの大きな変化は、国際交流の大規模な展開であった。私もその末端に位置したが、幸いなことに1990年代末から、科研「ぐるーぷ・とらっど」(研究代表・吉田伸之氏)による、アジア、そしてヨーロッパでの国際シンポジウム(現在の用語法では国際円座)に参加させてもらい、内実ある国際交流のあり方を学ばせてもらっていたことが、COEによる国際交流にも大いに役立った。  2000年代半ば以降、私が研究代表の科研プロジェクトとして「近世巨大都市大坂の形成と変容に関する基盤的研究―法と現実、中心と周縁の視点から―」(2005~08年度)、「近世大坂の「法と社会」―身分的周縁の比較類型論にむけて―」(2010~13年度)に取り組むことになった。この科研プロジェクトは、身分的周縁論の立場から大坂の都市社会史を推進することをめざしていたのだが、そこで一貫して重視したのが《法と社会》という視点であった。その基盤には、2003年に始めた「大坂町触を読む会」があった。この会は、当初の杉山家文書の「大坂御仕置御書出之留」の輪読から出発し、その後、三津寺町の町触関係史料の輪読へと引き継がれ、現在も継続している。「大坂町触を読む会」に並んで、2008年から「大阪府布令を読む会」も開始したが、これらの基礎的な取り組みが本当に大切だと痛感している。  COEプロジェクトから、引く続く科研プロジェクトで、多様な円座(国際円座を含む)を開催することになったが、その際、問題提起や趣旨説明を兼ねた報告の機会が多くなった。改めて振り返って見ると、最近10年余に発表した論考には、そうした報告をまとめた形のものが多くなった。それらの円座では「《法と社会》の視点から」と副題をつける場合が多く、そのため町触などの法史料を精緻に分析し、そこから社会構造を見通すことをめざす論考が多くなったのである。  都市大坂の身分的周縁の研究として、2000年代半ばには六斎念仏や白川家町神職、あるいは山伏などの勧進宗教者の併存と競合を追究した。それに続く数年間には、四ケ所垣外仲間、とりわけ天王寺垣外に即した大坂の非人身分の再検討を行ってきた。それが可能になったのは『悲田院長吏文書』(神戸市立博物館蔵)が利用できたことによるところが大きい。非人個人の履歴を追うことができ、それによって非人の〈家〉に着目することにもなった。こうして《身分制イデオロギーレベル》《集団構造レベル》《個人のライフヒストリーレベル》を踏まえた身分社会の全体的把握をめざす戦略が明確になった(拙著『大坂の非人―乞食・四天王寺・転びキリシタン―』ちくま新書、2013年)。 以上の取組みと並行して、1990年代後半から和泉の地域に根差した地域史研究を進めてきた。その内容と意義については、2014年度の大阪歴史科学協議会50回大会で報告した「地域史認識の深化-大阪歴科協と和泉市史での経験から-」(『歴史科学』220・221合併号、2015年)を参照いただきたい。特に「和泉市の歴史」の取り組みの中で、地域史の思想と方法を鍛えることができたと考えているが、それを広くみんなで考える場を持とうと地域史惣寄合を呼びかけた(第1回の呼ぶかけ人は香寺町史の大槻守さん、飯田市歴史研究所の吉田伸之さん、私の3人)。2008年の飯田(第1回)に続いて、2010年に姫路(第2回)、2012年に佐賀(第3回)で開催した。第4回は和泉で開催する準備を進めている。第3回の地域史惣寄合では、それまで地域史の固有性・絶対性を強調してきたが、マーレン・エーラスさんの議論に触発されて、その固有性を追求し、それを潜らせたうえで地域史の普遍性を統一的に考える必要性(「地域史の固有性と普遍性」)について問題提起を行った。 これまで私の研究は、身分社会・身分的周縁の研究、都市社会史、地域史を三つの柱として進めてきたが、身分的周縁の視点は、都市社会史や地域史を進めるうえでの視点・方法でもあり、また都市社会史は都市に即した地域史でもあり、それぞれが不可分の関係にある。「身分的周縁」研究会での共同研究の経験は、ここまで述べてきた私のすべての研究の基底に生きている。 (付記:『都市社会史の視点と構想-法・社会・文化-』の出版は様々な共同研究に参加して書いてきた論考によって可能になったと、改めて思っています。特に近世大坂研究会は、大阪市立大学において近世史を学ぶ・学んだ人たちをはじめ、国内外の研究者のネットワークに支えられた私たちの共同研究の場となっています。ここを基盤に今後も「共同の営為としての歴史学」を進めていきたいと思います。)

社会活動

地方自治体関係の委員

  • 和泉市史編纂委員(継続)
  • 和泉市文化財保護審議委員(継続)
  • 福井県立歴史博物館運営協議会委員(2014年7月~)

教育

担当講義(2015年度)

【大学院】

日本史学研究Ⅲ
  • 主題と目標

    近世大坂の都市社会史―《法と社会》の視点から
    近年の大坂の都市社会史研究は、日本全体の都市史研究を牽引し、新しい視野を拓いている。その際、都市民衆の生活世界を社会構造の深みからつかみだすことが目指され、その分析方法として《法と社会》の視角が重要な意味を持っている。これまでの、近世大坂の都市史研究の到達点を確認し、今後の研究方向を展望する。

  • 内容・計画

    これまで近世大坂研究会で積み重ねてきた共同研究によって、論集『近世大坂の法と社会』『身分的周縁の比較史―法と社会の視点から―』『近世身分社会の比較史―法と社会の視点から―』の3冊を刊行してきた。この授業では、この3著に収録された大坂の都市社会の形成と構造に関する論文を精読することを通して、近世大坂の都市社会史の研究状況とその基盤にある問題意識や分析方法を考え、今後の研究の発展方向を探っていく。

  • 受講生へのコメント

    論文を読むとはどういうことなのか。それをしっかり考えてほしい。

  • 参考文献・教材

    塚田孝編『近世大坂の法と社会』清文堂出版、2007年
    塚田孝編『身分的周縁の比較史―法と社会の視点から―』清文堂出版、2010年
    塚田孝・八木滋・佐賀朝編『近世身分社会の比較史-法と社会の視点から-』清文堂出版、2014年

日本史学研究演習3
  • 主題と目標

    地域社会史研究―和泉地域に即して―
    近年、各地で多様な地域史の模索が行なわれている。それは地域のもつ全体性に依拠しながら、歴史学の全体性の回復を求めるものでもある。こうした動向に学びつつ、地域史について実践的に考える。それを通して、地域史の思想と方法の発展をめざすとともに、史料の深い読解力・分析力を養成する。。

  • 内容・計画

    受講者各人が和泉地域の一次史料(時代は限定しない)を用いた研究報告を行い、討論する。但し、近世以前の報告では近世への展望を、近代以降の報告では近世からの展開を、必ず意識すること。

  • 受講生へのコメント

    〈地域史の思想と方法〉に自覚的に取り組んでほしい。

  • 参考文献・教材

    プリント配布

日本史学総合研究Ⅰ
  • 主題と目標

    日本史学研究法(研究計画立案)
    日本史学研究法の基礎を学び、考古学から古代・中世・近世・近現代にわたる日本史の総合的な研究遂行能力を養成することをめざす。

  • 内容・計画

    受講生各自が研究テーマの設定と研究計画を立案する基礎能力を獲得するため、担当教員が分担して各時代・分野について講ずる。その上で、受講生の関心にしたがっていくつかの研究テーマを設定し、それに関する専門書や学術論文の体系的かつ批判的検討を行なう。

  • 受講生へのコメント

    具体的な履修方法については指導教員の指示に従うこと。

  • 参考文献・教材

    必要な資料はコピー等で配付する。参考文献は授業時間に指示する。

日本史学総合研究Ⅱ
  • 主題と目標

    日本史学研究法(史料)
    日本史学研究法を史料の点から論じ、考古学から古代・中世・近世・近現代にわたる日本史の基礎的な史料分析能力を養成することをめざす。

  • 内容・計画

    受講生が日本史の研究能力の基盤をなす史料分析能力を広く身につけるため、担当教員が分担して各時代・分野の史資料の特徴について講ずる。その上 で、受講生の関心を考慮して対象史料を選定し、具体例を通じて各時代・分野の歴史史料の調査・読解・分析の基礎能力の高度化をはかる。

  • 受講生へのコメント

    日本史学総合研究Ⅰを履修していることが望ましい。具体的な履修方法については指導教員の指示に従うこと。

  • 参考文献・教材

    必要な資料はコピー等で配付する。参考文献は授業時間に指示する。

日本史学研究指導Ⅰ
  • 主題と目標

    日本史に関する修士論文作成の指導を行う。修士論文へ向けた中間レポートを完成させる。

  • 内容・計画

    論文テーマの設定、文献・史料の調査・収集、史料の分析、主題とそれを論じる研究方法の適合性、論文の構成、主題に即した論述の一貫性、論文の形 式的な統一など、修士論文作成に必要な事項について指導する。学期末には、修士論文へ向けた中間レポートと今後の研究計画を提出すること。
    学生はその研究テーマに応じて、いずれかの教員の指導を受けるものとする。
    (仁木 宏教授) 主に、古代から中世にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。
    (塚田 孝教授) 主に、中世から近世にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。
    (佐賀 朝教授) 主に、近世から近代にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。

日本史学研究指導Ⅱ
  • 主題と目標

    日本史に関する修士論文作成の指導を行う。修士論文を完成させる。

  • 内容・計画

    各自の研究計画に基づき、それぞれの研究を遂行する。具体的には、研究テーマに関わる史料の収集を行ない、その分析に基づく研究報告を順次行なうとともに、その上に立って当該研究テーマに関する先行研究の問題点の摘出を試みる。これにより修士論文の完成をめざす。
    学生はその研究テーマに応じて、いずれかの教員の指導を受けるものとする。
    (仁木 宏教授) 主に、古代から中世にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。
    (塚田 孝教授) 主に、中世から近世にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。
    (佐賀 朝教授) 主に、近世から近代にかけての時代の研究テーマに関わる修士論文の研究指導を行う。

日本史学論文指導
  • 主題と目標

    博士論文の指導を行う。3年間の受講を通して博士論文を完成させる。

  • 内容・計画

    1年次では、修士論文をまとめて学術雑誌に発表するとともに、博士論文の研究テーマの設定と研究計画の策定を行なう。そのため各学生の研究テーマ に即した研究分野の専門書や学術論文の体系的かつ批判的検討を行なうとともに、研究テーマとする時代の歴史史料の調査・読解・分析のより高度な応用力の獲 得をめざす。1年次終了時には、各自の研究計画書を提出するものとする。
    2年次では、研究計画に基づき、各自の研究を遂行する。具体的には、研究テーマに関わる史料の収集を行ない、その分析に基づく研究報告を順次行なうとともに、その上に立って、2年次終了時には、博士論文作成にむけた中間報告書を提出する。
    3年次には、引き続き史料の収集・読解・分析を行ない、それらをまとめて博士論文を完成させる。このために博士論文の構成と論述の仕方など具体的な指導を行なうこととする。
    学生はその研究テーマに応じて、いずれかの教員の指導を受けるものとする。
    (仁木 宏教授) 主に、古代から中世にかけての時代の研究テーマに関わる博士論文の研究指導を行う。
    (塚田 孝教授) 主に、中世から近世にかけての時代の研究テーマに関わる博士論文の研究指導を行う。
    (佐賀 朝教授) 主に、近世から近代にかけての時代の研究テーマに関わる博士論文の研究指導を行う。

【学部】

[第1部]

日本史基礎講読Ⅱ
  • 主題と目標

    「地域の歴史的総合調査」の意義と古文書読解の初歩
     日本史研究室では、毎年秋に和泉市域の一地区(江戸時代の村に当る)を対象に、「地域の歴史的総合調査」に取り組んでいる。それは、一つの地域に即して、時代を越えて、史料調査・聞取り・地域空間把握など総合的な調査を行なうことをめざすものである。秋の調査にむけて、「地域の歴史的総合調査」の目的と意義を理解し、史料調査に際して必要となる古文書読解の初歩を身に付ける。

  • 内容・計画

    第1~3回の講義で「地域の歴史的総合調査」の実際を紹介し、その目的と意義について考える。その後は、毎回、近世史料の写真版コピーをテキストとして、受講生各自の筆写、読み合せ、内容理解によって授業を進める。テキストには、基本的なくずし方の史料を用いる。。

  • 受講生へのコメント

    予習・復習がたいせつ。課外に院生がチューターで行なわれている「古文書を読む会」へ参加することも有効。

  • 参考文献・教材

    プリント配布

日本史講読Ⅲ
  • 主題と目標

    近世古文書講読
    大阪府の南部に位置する和泉市域に残された近世の村方文書から、基本的なものを選んで読んでいく。これを通して近世古文書の読解力を養うことをめざすとともに、近世の民衆生活の一端に触れることができればと思っている。

  • 内容・計画

    この授業では、毎年秋に日本史研究室が行なっている和泉市教育委員会との合同調査(「地域の歴史的総合調査」)によって発見された古文書をテキストとしている。昨年度は、芦部町(近世の今在家村)に残された史料を取り上げ、①今在家村と旦那寺の成福寺、②「泉州郷荘今在家村座帳」(正徳5〔1715〕年より大正期まで)、③幕末の座関係史料、④金毘羅講関係史料の四グループに分かれて、近世後期の今在家村の民衆生活(信仰や習俗など)の諸側面の復元を試みた。今年も、秋の合同調査で発見された史料もしくは関連史料をテキストに、その史料の内容に即してグループをつくり、発表形式で行う。

  • 受講生へのコメント

    グループでの事前準備がたいせつ。課外に院生がチューターで行なわれている「古文書を読む会」へ参加することが必要。

  • 参考文献・教材

    プリント配布

日本史演習Ⅲ
  • 主題と目標

    近世都市史演習
    近世都市史について、受講生各自が興味を持つテーマを設定し、そのテーマについて研究史を調べ、史料に基づいた報告を行なうという形式で授業を進める。これにより、近世史研究の方法の習得を目指す。

  • 内容・計画

    テーマ設定は、大坂町触の中で興味をもったもの数個を選択する形で行なう。その町触が問題としている諸事象をテーマとし、各テーマを2~3名のグ ループで担当する。各グループが、次の3段階に従って、ほぼ3回の報告を行なう。第1ステップは、基本町触の正確な理解。第2ステップは、その町触の内容 がどのように論じられてきたか。第3ステップは、関連町触の網羅的な検討。

  • 受講生へのコメント

    グループでの事前準備がたいせつ。

  • 参考文献・教材

    プリント配布
    塚田孝『近世の都市社会史』青木書店、1996年
    『大阪市史』第1~5巻、清文堂より復刻版

日本史特講Ⅲ
  • 主題と目標

     「日本史の諸問題」-卒業論文の作成を念頭において、各時代・分野の最新の研究状況をフォローすることをめざす。

  • 内容・計画

    まず、これまでに活字になった卒業論文のいくつかを取り上げ、受講生とともに輪読する。その後、卒業論文にむけて、受講生の関心にしたがった諸問題を取り上げる。受講生による関連文献の報告を盛り込み、それをめぐって討論し、問題意識を深め、卒業論文に備える。

  • 受講生へのコメント

    この授業は、4回生の卒論演習につながっていくものと位置付けている。卒論とはどういうものなのか、考えてほしい。

  • 参考文献・教材

    プリント配布

    以上に記したのは、正規の授業科目であるが、大学での勉学はそれにとどまらない。近世史関係について、その一端を述べておく。
    毎週一回(ここ数年は水曜日の6時から9時:2015年度は時間帯を変更する予定)、近世史専攻の学生・院生・OB(すでに就職している者も含め)が参加する研究会を行っている。ここが、学生の卒論や院生の修論・博論の準備報告を行い、また院生やOBの論文発表の準備の場となっている。この研究会では、毎年春・秋に合宿も行い、秋には夏休み中の勉強の成果を発表する機会としている。また、他大学の教員・院生や学芸員なども参加する大坂町触研究会を月一回程度(10時頃から6時頃まで) を行っているが、院生・学生にも参加を求め、彼らが主として報告を担当している。史料読解力を養成する場となっている。和泉市教育委員会との合同調査は、学生・ 院生の教育の場として大きな意味を持っている。
    最近10年余り、海外からの若手の研究者を受け入れるようになったが、彼らも上記のような活動に参加し、院生・学生に大きな刺激を与えてくれている。今後もそれは継続していくだろう。

[第2部]

人文学概論Ⅱ
  • 主題と目標

     人文学の一部としての歴史を学ぶ楽しさ、意義を考える。

  • 内容・計画 1、伝統社会と歴史
    2、現代と歴史
    3、史料と歴史
    4、地域と歴史
    5、歴史学の方法
  • 受講生へのコメント
  • 参考文献・教材
日本史通論III
  • 主題と目標

     近世大坂の都市に生きた人びとの生活の諸相を見ながら、近世身分社会への理解を深める。講義では、毎回、基本となる史料を取りあげ、そこから問題を敷衍していく方法をとる。これにより、歴史研究の手法を学ぶことができればと思っている。

  • 内容・計画

     まず、近世都市大坂の成立と社会の仕組みについて概観する。その後、孝子・忠勤褒賞の史料を利用して、下層民衆の生活世界について具体的に見てい くことにしたい。孝子・忠勤褒賞は18世紀末ころからさかんに行なわれるようになるが、それは都市民衆に孝行や忠勤を勧めるために広く市中に伝えられた。 こうして残された孝子褒賞の史料は、都市民衆の生活を窺がう格好の素材なのである。毎回、この史料を一点づつ読み解きながら、都市に生きた人びとの仕事、 暮らし、宗教、社会結合などを具体的に見ていく。 以下のテーマを順に各1~2回で進める。  ・近世都市大坂の成立と構造
     ・孝子・忠勤褒賞の特徴
     ・借屋人の世界と家請人
     ・職人の暮らしと仲間
     ・勧進宗教者と座頭
     ・芸能者と遊女
     ・髪結と夜番
     ・総括

  • 受講生へのコメント

     史料を読む楽しさを感じてもらうとうれしい。

  • 参考文献・教材

     プリント配布
     塚田孝「近世後期大坂における都市下層民衆の生活世界」井上徹・塚田孝編『東アジア近世都市における社会的結合』清文堂、2005年

以上に記したのは、正規の授業科目であるが、大学での勉学はそれにとどまらない。その一端を述べておく。

毎週一回(ここ数年は水曜日の6時から9時)、近世史専攻の学生・院生・OB(すでに就職している者も含め)が参加する研究会を行っている。ここ で、学生の卒論や院生の修論・博論の準備報告を行い、また院生やOBの論文発表の準備の場となっている。この研究会では、毎年春・秋に合宿も行い、秋には 夏休み中の勉強の成果を発表する機会としている。また、他大学の教員・院生や学芸員なども参加する大坂町触研究会を月一回程度(10時頃から6時頃まで) を行っているが、院生にも参加を求め、彼らが主として報告を担当している。史料読解力を養成する場となっている。和泉市教育委員会との合同調査は、学生・ 院生の教育の場として大きな意味を持っている。

ここ2~3年、海外からの若手の研究者を受け入れたことが、彼らも上記のような活動に参加し、院生・学生に大きな刺激を与えてくれた。今後もそれは継続していくだろう。