大阪市立大学大学院文学研究科日本史研究室

合同調査について

市大日本史研究室と和泉市教育委員会の合同調査

合同調査とは…

 市大文学部の歴史学教室の行事は、遠足や旅行などたくさんありますが、日本史研究室にとって1年で最も大きな行事は、毎夏和泉市で実施する和泉市 教育委員会との“合同調査”です。合同調査は2泊3日で行い、専攻する時代・分野を問わず、ほぼ全ての学生(2~4回生)と院生、先生方が参加します。他 大学やOB・OGで参加する人もいるため、参加者総数は70名ほどにも及ぶ、たいへん大規模な調査です。方法がとてもユニークであるため、全国的にもかな り注目されているそうです。

 調査を中心になって組織するのは、学生・院生・先生・和泉市教育委員会(市史編さん事務局)のメンバー15名ほどからなる実行委員会です。毎年5月初め に立ち上げ、会議を重ねて調査計画を立てます。実行委員会は、調査3日間で終わるのではなく、事後に報告書を作成し、次年度5月刊行の雑誌『市大日本史』 に掲載するまで、ほぼ1年のあいだ取り組みを継続します。以下、この合同調査について、少し紹介しましょう。

 合同調査では、和泉市内の町会から対象地域を選び、1つの地域(町会)を歴史学の方法に基づいて色々な角度から調査します。具体的には、地域に残された 古文書の調査、地元のお年寄や町会役員の方からの地域生活や地域運営に関する聞き取り調査、水路や古い石造物、景観に注目しながら実際に地域を歩いて回る フィールドワーク、墓石や石碑に書かれた文字を記録に残す拓本調査など、多様な調査を行ってきました。こうした様々な調査ができるのは、ただ調査方法自体 が多様にあるからそれらを駆使するという理由だけではなく、調査対象となる「地域」そのものの中に、重層的で豊かな人々の生活痕跡がたくさん残されてお り、それぞれの地域が個性的なあり様を持つからこそ、色々な調査を行うことが意味を持つ点が重要だと思います。

godochosa06.JPG 現在の和泉市の町名
godochosa05.JPG 和泉市の地形

どんな調査をしているのか…

 現在の和泉市の「町会」は、戦後宅地化された新しい町を除いて、ほぼ江戸時代の「村」の範囲が引き継がれてきています。そのため、庄屋をしていた 古い家の蔵などに、村の様子を詳細に記した古文書が現存していたり、近代以降の戸長文書・町会史料などが豊富に残されていたりします。ときには中世文書が 伝来しているお宅もあります。1つの「地域」に残されてきた全ての古文書をその地域に即して研究することにより、地域における歴史の展開を、「古代・中 世・近世…」という中央の政治史による時代区分で輪切りにすることなく、人々がどのように暮らしてきたのかという点から精緻に検証できるのです。合同調査 では、こうした古文書の調査を、古文書のまとまりそのものがどのように地域に残されてきたのか?という視点を重視して“現状記録調査法”という調査方法を 用い、1点ずつ詳細に記録をとっていきます。

 合同調査で調査した古文書は、後期の授業で教材に使われ、調査後もさらなる読み込みを進めます。合同調査の3日間では古文書に書かれていること全ては分 析できないのですが、授業を通してだんだんと理解が深まっていきます。学部時代の合同調査は、本物の古文書に触れることができるまたとない機会であり、ま たその古文書が残されている地域で史料調査を行うという、たいへん稀有な経験をさせてもらえる場として、私自身、毎年とても楽しみに参加していました。特 に、2回生時の合同調査で調査した山間村落の古文書は、後期の授業で同級生と共にグループ報告を重ね、報告書にも史料紹介を書くという小さな“共同研究” を体験させてもらいました。そして4回生の時には、もう少し研究を深めたいと思い、この村の古文書を卒論の素材にしました。

 また、聞き取り調査についてもユニークな点があります。近年、聞き取り調査は“オーラル・ヒストリー”と呼ばれ、歴史学の重要な方法の1つとして注目さ れるようになりました。聞き取り調査は、一般的には個人の経験・記憶を記録する方法として用いられてきましたが、合同調査ではこうした点を踏まえつつ、さ らに“地域における人々の暮らし・地域のあり様・地域運営”を記録するという点をより意識しています。ふだん聞き取り調査に慣れていない学生や院生にとっ ては、何を聞いてよいのか分からず難しい部分もありますが、私達の祖父母と同世代にあたる方々からお話を聞くことにより、私達の世代と過去の社会とのつな がりを考える良い機会にもなります。

 こうした古文書・聞き取り調査に加えて、フィールドワークで現地を実際に歩き、それらを全て相互連関的に把握することによって、地域のあり様を立体的に 把握できるようになります。ただし、地域の状況によって調査方法自体にもかなりの工夫が必要です。実行委員会では毎年どのような調査を行うのか、熱い議論 を重ねています。そのような中で、合同調査を“地域の現状記録”と位置づける意義や、大学と市教委との合同と考えるでなく、“地域との合同調査”でもある と自覚するようになるなど、あらたな意義・意味が見出されてきました。

godochosa03.JPG 古文書調査の様子
godochosa02.JPG 聞き取り調査の様子
godochosa04.JPG フィールドワークの様子

 歴史を学ぶ中での一番の醍醐味は、本やテレビに流れる“歴史像”を通じて間接的に歴史を知ることや、歴史上に名を残す有名人物についてあちこちか ら知識をかき集めることではなく、古文書や遺構と格闘することで過去の社会と直接向きあったり、現在の地域の中に過去の痕跡が残されていないか、懸命に探 しながら歩いたりすることだと思います。合同調査は、そうした営為を多くの人と協同しながら経験できる最良の場だと言えるでしょう。いつか、みなさんと一 緒に調査する日が来ることを、心から楽しみにしています!

(日本学術振興会特別研究員・日本史専修OG 斉藤紘子)

2011年度合同調査を振り返って

 11年度の合同調査は、9月27~29日の日程で和泉市尾井(おのい)町を対象に行いました。尾井町は、平野部の尾井町会と山間部の山ノ谷町会に わかれており、もともとは別の集落であったと思われます。そこで当日は、二手に分かれて尾井・山ノ谷双方の歴史的な展開を、史料調査や聞き取り、フィール ドワークなどの手法を用いて総合的に明らかにしようとつとめました。調査でみつかった史料群については、後日学部生の授業でさらに分析を加えました。これ らの成果は、『市大日本史』15号(2012年5月刊行)にまとめられています。

 合同調査では、過去の地域社会に生きた人々が残した様々な“生の”史料(これを一次史料と呼びます)を直接手にとり、そこから地域で築かれてきた 歴史を明らかにしていきます。また、地域の方々から様々な話を聞いたり、実際に地域の中を歩いたりすることによって、文字史料からだけではわからない地域 の現状や歴史を再確認・再発見することができます。つまり、現地で調査することによって、その地に暮らす(暮らしてきた)人たちが長年にわたって築いてき た歴史とより直接的に向き合うことができるのです。それこそが、合同調査の最大の“醍醐味”であり、大学(院)で歴史学を学ぶ上でとても重要な経験になる ことでしょう!

 また、調査には市大の先生や大学院生、学部生の他にも多くの人が参加します。年齢や学年、専門分野の違いを越え、大勢の人間と交流し、皆で1つのことに取り組むということも合同調査の“楽しさ”であり、かつ大学生活の大きな糧となることでしょう。

 こうした調査にも積極的に参加してくれる好奇心旺盛なみなさんを心よりお待ちしています!

goudou2011.jpg 2011年度合同調査(尾井町)集合写真

(2011年度合同調査実行委員長 大学院文学研究科後期博士課程 新谷和之)