平成16年度提出卒業論文
幼い子を抱えた新規移民によるエスニックネットワークと近隣ネットワークの利用
−カナダ・トロント、South Parkdale地区の事例−
日野智予
要旨 グローバル化の進展により人・物の流れは益々活発になったと言われて久しい。それは,建国当初より移民を受け入れ,言わば移民によって国家が成り立っているカナダにおいても同じである。カナダでは移民受け入れの長年の蓄積により,移民が移住先での新生活へよりスムーズに適応できるように様々な支援やサービスが提供されている。そうした中で,本稿では幼い子供を抱えた新規移民1)家族に対してどのような支援が提供されているのかということと,それらの支援に対する情報を彼らがどのように入手し,どのように利用しているのかということを,トロント市South Parkdale地区での事例を紹介しつつ,その傾向を示すことを試みた。
キーワード:新規移民,子育て,エスニックネットワーク,近隣ネットワーク,South
Parkdale
目次
T はじめに
1) 問題の所在
2) 調査対象地域の概要
3) カナダの子育て事情
U 調査施設及び調査方法
1) 子育て支援提供施設及び団体
(a) Community Parent Outreach Program(コミュニティキッチン)
(b) Parenting
Centre
(c) Creating
Together
2) 調査方法と調査協力者
(a) 調査方法
(b) 調査協力者の基本的属性
V 移民の特性と子育てネットワークの関係
1) 子育て支援施設を知った経緯
2) 子育てに関する疑問や悩みの相談相手
3) ヘルスケアの情報源
4) 英語の習得度
(a) 英語の習得度と子育て支援施設に関する情報
(b) 英語の習得度と相談相手
5) 移民形態の相違
(a) 移民形態と子育て支援施設に関する情報
(b) 移民形態と相談相手
W 子育てネットワークの構築,利用に影響を与えるもの
1) 移動距離の制限
2) 経済力
終わりに
1) まとめ
2) 今後の課題
T はじめに
1)問題の所在
シカゴ学派は新規移民は移民当初,都市部の伝統的に移民を受け入れてきた地域に居住し,経済基盤を確立すると郊外に移住し,インナーシティは新たな移民に提供される。というモデルを提示した。しかし,近年,トロントでは新規移民の居住パターンはこのモデルほど単純なものではなく,新規移民の郊外居住が進んでいる。しかし,依然として多くの定住化への支援サービス提供施設は伝統的に移民を受け入れてきた地域に多いため(Marie
Truelove 2000),近年のトロントの新規移民は,各種の支援を容易に受けることができていないと考えられる。本稿では伝統的に移民を受け入れてきたSouth
Parkdale地区で,幼い子どもを抱えた新規移民家族が子育てネットワークとしてどのようなネットワークを利用しているのか,ネットワーク構築に関して支援提供施設がどのような役割を果たしているのかを考察した。近年新規移民が居住するようになった地域では,近隣ネットワークの構築に寄与する施設やイベントがあまり,もしくは全くないことから,South
Parkdale地区のような長年移民を受け入れてきた地域とは違った子育てネットワークの構築,及び利用が行われていると考えられる。
South Parkdale地区のように移民受け入れの蓄積があり,子育て支援を含む移民の定住化を支援するサービスが充実した地域から,どのようにサービスを提供するべきかを学ぶと同時に,近年新規移民が増えてきた郊外から,サービスが不足しているとどのような問題が起こりうるのかをみることは,カナダのみならず日本のように移民の受け入れ経験に乏しい地域において新規移民に対する支援のあるべき姿を模索する上で,有益であると思われる。
2)調査対象地域の概要
本稿で調査対象地域として選んだSouth Parkdale地区は、カナダの経済・社会・文化の中心都市の一つであるトロント市2)の南西,オンタリオ湖に面した所に位置する(図1)。
建国以来多くの移民を受け入れてきたカナダの中でもその経済力ゆえにカナダへの移民の約4分の1以上を受け入れ,人口の半数近くを海外出生者で占めているトロント市の中で,South Parkdale地区は第二次大戦以後多くの移民が流入し,人口に占める移民の割合,中でも新規移民の割合が他の地区に比べて高い。人口21810人の内12100人を移民が占め3),そのうちの31%が1996〜2001年に移民してきた新規移民で,1991年以降に移民してきた者と合わせると53%に達し,この地区の人口のおよそ30%は1991年以降に移民してきた人々で占められている(図2)。
図1
歴史的にはSouth Parkdale地区は1889年に最初の家が建って以来,イングランドやスコットランド,アイルランド出身の中上流階級の人々が定住し,1920年頃には少数の中国,イタリア,ドイツ,ポーランド出身者が登場するものの,トロントのほかの地区同様,長い間アングロサクソン系の住民が多くを占めていた。ところが1950年代半ばから1960年半ばにかけて建設されたGrdiner
Expresswayによって,オンタリオ湖から分断された地区は「湖畔の魅力的な住宅地」という性格を失うと共に,多くの住宅が取り壊されそれまでの居住者は地区外へ移り住んでいった。また,中上流階級の流出に伴い取り壊された住宅地には,アパートが建設され新規移民に低家賃の住居が提供されることになった。その結果,東ヨーロッパ,特にポーランド出身者が増加し,その後1970年代後半にはトロントの中でもポーランドコミュニティの中心地となる程,大量のポーランド移民が流入するようになった。1961年センサスではSouth
Parkdale地区を含むParkdale地区の全人口の11%にも達し,いまだにSouth Parkdale地区の人口の7%を維持している。1950年代にはポーランド出身者とほぼ同程度の人口を占めていたウクライナ出身者は,1971年センサス時点では半減したものの,第二次大戦後の大量移民としてポーランド出身者同様この地区に大きなインパクトを与えた。
1960年代には,フィリピン出身者の移民も目立ってくる。彼らの多くは医師や看護師で,アメリカ経由で移民してきた。しかし,医師の多くはカナダでは自分達の医師の資格がそのまま通用しないことに気付き,アメリカに戻っていった。ただ,看護師についてはカナダでの看護師不足からマニラ大学へ募集をかけたことと,1965〜1966年は家族呼び寄せに関する条件が緩やかで職がなくてもスポンサーになれたことなどが影響して,この時期に2000人規模の移民が押し寄せた。しかし,フィリピン出身者の多くは移民して数年はこの地区のアパートに居住したが,その後郊外に家を買って移り住んでいく者が多かったことと,彼らの英語への高い適応能力からか,フィリピンコミュニティを形成するには至らなかった。
1970年代には,アングロサクソン系,ポーランド系に続く第三の波として,インド出身者が増加してくる。その後,2,3百人規模のギリシャ出身者やリトアニアやユーゴスラヴィア,チェコスロバキア(当時)といったスラブ系の移民がやってきて,この地区の民族的多様性が増した。そして,近年は図3や図4に見られるような地域からの移民を受け入れており,1996年から2001年にかけてはアジア出身移民の受け入れが顕著である。
3)カナダの子育て事情
South Parkdale地区において,新規移民がどのような子育て支援を利用し,それらの情報を何を通して得ているかを見る前に,本節では簡単にカナダの子育てを取り巻く環境について紹介しておきたい。
連邦制のカナダでは各州によって,又各自治体によっても子育て支援に関する状況は異なる。ただ,カナダ全体としては公設の保育施設は少なく,少人数の個人宅での預かりやベビーシッターといった私的な保育が主流だが(小出1991,2003,永瀬2002),オンタリオ州,特にSouth Parkdale地区のような人口の密集した都市部では公的な保育施設も開設されている。私的な保育としては他に住み込みのナニーを雇うケースもあるが,高所得者に限られたことで新規移民が利用するケースはあまり考えられない。今回の調査では調査方法の制約と調査の目的が近隣及びエスニックネットワークの構築やその活用と子育て支援提供施設や団体がそれらに与える影響を明らかにすることであるので,私的な保育ではなく公的な保育利用者に焦点を当てた。ただ,公的と言っても日本のように全国一律の制度化された保育ではなく,上述した少人数の個人宅での預かりであっても,保育資格保持者が所属する監督機関の傘下に入ることで規制や助成の対象となり,公的保育の一つとして考えられるが(小出2000),都市部では少ないことから今回の調査対象には含んでいない。他の公的保育施設としては,日本の認可保育施設に近い免許制の保育施設とFamily Resource Centreと呼ばれるものがある。小出(2003)や永瀬(2002)が述べているように,カナダでは一元的な公設の保育施設が整っていないがゆえに,伝統的な近隣地区での預かりや民間から自然発生的に設立されてきた施設に公的な援助を行って,公的保育としているケースが多い。Family Resource Centreについても例外ではなく,統一された基準を持って設立されたわけではないので,一口にFamily Resource Centreと言ってもその定義ははっきりしておらず4),各施設によって提供しているサービスやサポート,設立目的も様々である。ただ,一般的にはその施設内で親子が遊べる場を提供しているか,そのような場を提供しながら先述の個人預かりの家庭保育室の指導監督を行うことを基本機能としている。Family Resource Centreについても公的と言うものの,州政府や市政府が資金を提供し運営はNPOなどの非営利の民間団体が行っているケースや,各政府諸機関と複数の民間団体が連携して運営にあたっているケースが多い。
次に保育施設の内容についてだが,免許制の保育施設はディケアやナースリースクールで日本の保育所と同じように,共働きか単身世帯の保護者が子どもを預けるものである。一方,Family Resource Centreは先述のように子どもと保護者5)が一緒にやってきて,子どもには他の子どもと共に遊んだり,様々なおもちゃに触れる機会を,保護者には子育ての情報交換や近隣地区での友人作りの場を提供する施設である。このような機能はdrop-inと呼ばれ,決まった利用時間はなく,開設時間内であれば,いつ来てもいつ帰ってもよい。また,施設の行事としてヘルスケアや子育て中の不安や悩みを解消するワークショップを開いたり,おもちゃや図書,育児用品の貸し出しを行ったり,病院や保健健康センターへの訪問の際に付き添ったり,一時保育を提供することもある。
U 子育て支援提供施設及び調査方法
1) 子育て支援提供施設及び団体
South Parkdale地区における子育て支援提供施設及び団体の所在は図5に示した。以下に,調査協力施設及び団体についてその設立の経緯や性格,サービス・サポートの内容を紹介する。
(a)Community Parent Outreach Program(コミュニティキッチン)
Community Parent Outreach Program(以下CPOP)は前述の各施設の中では,Family
Resource Centreの中核機能であるdrop-in機能は持っていないものの,地域の情報提供やワークショップの開催,子育て関連施設への介添え等,極めてFamily
Resource Centreに近い施設である。現在はトロント市内の広範囲でコミュニティサービスを提供しているSt.
Christopher Houseの一プログラムとして,South Parkdale地区を担当している。しかし,CPOPはSt.
Christopher House内部で設立されたものではなく,South Parkdale地区で問題を抱えた家族向けにサービスを提供していた様々な施設や団体の運営者らによって設立されたものである。彼らは活動を通して,この地区では新規移民を対象に様々な支援が提供されているにも関わらず,どこに行けば必要な支援を受けられるのか,またそれぞれの施設や団体の違いが分からず,実際そのような支援を必要としている新規移民に活用されていないということ,また,例え施設や団体を知ったとしても言葉の壁から訪れるのをためらっている新規移民も多いことに気付いた。そこで,各施設や団体と新規移民を結びつけるコーディネーターを務める機関が必要であるとして,1992年にParkdale
Focus Community Projectが設立され,その中の子育て支援プログラムであったMum’s
Support ProjectがCPOPと名称を変え独立し,2000年には,Parkdale Focus Community
Projectとともに,St. Christopher Houseの傘下に入った。
CPOPの目的は,Parkdale Focus Community Projectの設立目的であったコーディネーターとしての役割はもちろん,コミュニティキッチン(写真1)や遠足,学校や後述する施設への訪問やワークショップ,パーティ(写真2)などのイベントの開催によって,新規移民がカナダの文化に触れたり,近隣の人と知り合う機会を設けることを通して,妊娠中の母親や0歳児から6歳児の子どもを抱えた新規移民家族が社会的に孤立するのを防ぐことである。CPOPでは子育てに関わる情報の提供と,他施設と新規移民との仲介を主な仕事として行っているが,事務所に直接移民が訪ねてくることはあまりなく,提携施設や時には移民の個人宅にスタッフが訪問してサービスを提供している。このように,サービスを必要としている人が利用しに来るのを待っているのではなく,提供する側がから出かけていくことをアウトリーチと呼び,CPOPのスタッフはアウトリーチ・ワーカーと呼ばれている。新規移民をサポート対象としていることから,英語,ベトナム語,ポーランド語,タミル語,シンハラ語,北京語,広東語,スペイン語,ポルトガル語による支援が提供されており,各言語は専任のアウトリーチ・ワーカーによって提供されている場合と,以前CPOPのサービスを利用していた移民がパートタイムやボランティアとして提供している場合がある。
コミュニティキッチンとはCPOP以外の施設や団体でもよく行われているもので,食材を主催者側が提供し,参加者が共に料理を作り共に食事をする間に,子育ての情報交換したり個人的な子ども預かりのネットワークを築いたりできるようにということが目的である。CPOPの場合,月に一度開かれ月ごとに担当のエスニックグループを決めて,担当のエスニックグループが自分達の民族料理を作り,異文化交流を図ろうというものである。また,栄養士を招きカナダで手に入る食材で健康によいおやつの作り方を講習することもある。これは,移民の中には母国で缶詰や調理済み食品を利用してこなかったので,それらを使った手軽にできるおやつを知らずに,ファーストフードやジャンクフードばかりを子どもに与える人が少なからずいるために行っているそうだ。
写真1 CPOPコミュニティキッチンの様子
掲載元:St. Christopher House Annual Report 2003-2004
写真2 CPOPのWinter Party 撮影日時:2003/12/14
クリスマスの時期に開催されるが,宗教色は前面に出さないようにWinter Partyと呼ばれている。民族衣装を着た子ども達が各民族の歌や踊りを披露する
(b)Parenting Centre
図5中4のQueen Victoria Public School内に併設されおり,月曜から木曜までの9:00~15:00まで開設されている。おやつの時間(写真3)やサークルタイム(写真4)と呼ばれる輪になって本を読んだり歌を歌ったりする時間はあるが,基本的に出入り自由なdrop-in施設である。
写真3 Parenting Centre おやつの時間 撮影日時:2004/10/04
写真4 Parenting Centre サークルタイム 撮影日時:2004/01/12
Parenting Centreと一括して呼んでいるが,実際には午前中はParenting Centreとして,午後はToronto
First Duty Projectとして別々のプログラム,資金で運営されている。Parenting
Centreとは今からおよそ20年前の1981年に始まったプログラムで,トロントのインナーシティ内の公立小学校の中に設けられている乳幼児を連れた保護者が無料で子どもを自由に遊ばせることができる場所である(小出2003)。ここでも,午後のプログラムを含めて利用に当たっては一切費用はかからない上に,学校内にあるということで,上の子が小学校に通っていたり,併設の幼稚園に通っている場合は利用しやすいといった特徴がある。Toronto
First Duty Projectとは, 0歳児から6歳児を対象とした早期学習プログラムと家族支援,チャイルドケアを一つのプログラムとして提供することを目的に,2001年よりトロント市が主体となって,市内の5つの小学校を選んで実験的に実施されているものである。チャイルドケアも提供されることになっているが,ここでは提供されておらず子どもは必ず保護者が面倒を見ることになっている。
午前,午後両プログラムともに,早期学習や保護者に子どもとどのように接したらいいのかを先生が自ら手本になって示すことが一つの大きな目的であるため,毎日準備される工作の題材や置かれているおもちゃも学習効果を狙ったものであり,先生が利用するに当たって何らかの目標や方向性が示し,子育て教室のような役割も果たしているようであった。
ここでは基本的に1人の先生に運営が任されているが,先述のCPOPから曜日毎に異なる言語を話すアウトリーチ・ワーカーが訪問し,新規移民の利用者に対して先生とのコミュニケーションの橋渡しをしたり,CPOPが主催するワークショップや地域で行われるイベントの紹介をしたりしている。また,資料1に見られるような多言語の案内の作成も彼らが担っている。
調査を行った9月は新学期の始まりに当たるので,新たに利用し始めたり利用しなくなったりする家族があったり,一度だけ利用して次から来なくなる家族も名簿に記入していくため,実際の数よりはかなり大きな数字になっているが,調査時点で約60家族の利用者がいた。ただ,来所は全くの任意であり天候や曜日,時間帯によって利用者数は異なる。
資料1
(c)Creating Together
オンタリオ州のEarly Yearsというプロジェクトによって開設された施設で,月曜から木曜の10:00〜15:00と,金曜の10:00〜14:00,月二回の土曜は9:00〜14:00に開設されている。Ontario
Early Yearsとは,0歳児から6歳児の間の生活が後の人生に与える影響が大きいとして,その途上にある親子を家族全体として支援していくことを目的としたプロジェクトである。地区ごとに支部を設け,実際に支援サービスを提供する場の紹介や支部内の各施設の管理や運営方法に関する情報交換を行い,実際に保護者と子どもが遊べる場を提供している所もある。Creating
TogetherはHighPark-Parkdale支部の下部機関として,Drop-inの機能と地区内で開かれる健康診断や予防接種等健康に関わる情報提供や資料2にみられるような移民向けのワークショップ,Nobody’s
perfectと呼ばれている親が保健婦やスタッフ,他の親などと子育てについて思うこと,悩んでいることなどを話し合うプログラムを実施している。ここでも,Parenting
Centreと同じようにおやつの時間やサークルタイムがあるがどちらも短時間で,上記のような特別なプログラムがある時以外は,基本的に利用者は自由に時間を過ごしているという感じであった。こちらでは,週に二回有料のチャイルドケアが提供されているが,年に2・3回の遠足以外は他は全て無料で利用できる。
資料2
写真5 Creating Together おやつの時間
写真6 Creating Together サークルタイム
ここは,常駐のスタッフの2名で運営されているが,ボランティアや福祉課程を履修している大学生1,2名がおやつの用意や掃除を担当している。チャイルドケアについてはEarly
Yearsの支部から派遣されている専任のスタッフ2名が担当している。
利用者については,Parenting Centre同様,日によって定まらないが,名簿上は約150の家族が利用している。
2)調査方法と調査協力者
(a)調査方法
今回の調査では資料3(巻末)にある質問票を用いて,前述のParenting CentreとCreating
Togetherの二施設を利用している保護者とCPOPが主催するコミュニティキッチンへの参加者を対象に,インタビュー形式で調査を行った。
表1 調査協力者の基本的属性
回答者番号 |
出身国 |
母語 |
渡加年次 |
移民形態※1 |
|
No.1 |
バングラデシュ |
ベンガル |
2003 |
Landed |
|
No.2 |
バングラデシュ |
ベンガル |
1999 |
Family Class |
|
No.3 |
中国 |
北京語 |
2000 |
Landed |
|
No.4 |
ガイアナ |
英語 |
2002 |
Family Class |
|
No.5 |
インド |
マラヤラム語 |
2003 |
Landed |
|
No.6 |
インド |
テルグー語 |
2004 |
Landed |
|
No.7 |
トリニダード・トバゴ |
英語 |
1997 |
Landed |
|
No.8 |
スリランカ |
タミル |
2000 |
Refugee |
|
No.9 |
エジプト |
アラビア語 |
1987 |
Landed |
|
No.10 |
チャド |
Courane※2 |
― |
Landed |
|
No.11 |
ベトナム |
ベトナム語 |
1998 |
Family Class |
|
No.12 |
フィリピン |
タガログ |
1991 |
Skilled Worker Class |
|
No.13 |
エチオピア |
アムハリ |
1996 |
Family Class |
|
No.14 |
パキスタン |
ウルドゥー |
2000 |
Family Class |
|
No.15 |
パキスタン |
ウルドゥー |
2004 |
Family Class |
|
No.16 |
中国 |
北京語 |
1999 |
Landed |
|
No.17 |
トリニダード・トバゴ |
英語 |
1967 |
Landed |
|
No.18 |
スリランカ |
タミル |
1990 |
Family Class |
|
No.19 |
スリランカ |
タミル |
1991 |
Refugee |
|
No.20 |
中国 |
北京語 |
2003 |
Landed |
|
No.21 |
中国 |
北京語 |
2000 |
Landed |
|
No.22 |
中国 |
北京語 |
2003 |
Landed |
|
No.23 |
中国 |
北京語 |
1999 |
Landed |
|
No.24 |
インド |
チベット |
2003 |
Others※3 |
|
No.25 |
インド |
チベット |
2002 |
Others※3 |
|
No.26 |
スリランカ |
タミル |
1999 |
Landed |
|
No.27 |
インド |
テルグー語 |
2003 |
Family Class |
|
No.28 |
中国(チベット) |
チベット |
1999 |
Refugee |
※1 移民形態について,詳しくは本文中で述べる。
※2 Couraneという言語は確認できず,Kouraneの間違いもしくはコーランの言語としてアラビア語をさしている可能性も考えられるが,確証はないので回答者の記入をそのまま用いた。
※3 ビジタービザで入国後,永住権を取得した。
※4 網掛けのNo.9,10は移民年次が1989年以前であり,No.17は無回答であるので,分析には加えなかった。
(b)調査協力者の基本的属性
調査協力者の基本的属性については表1に示した。渡加年次については,1989年以前が2人,1990年以降が25人,その内1997年以降に渡加した新規移民は21人,回答拒否が1人であった。本稿の調査対象は新規移民であるため,本来であれば1997年以降に渡加した21人のみについて考察するべきところではあるが,1990年以降1997年未満に渡加した4人に関しても,時を経ることで新規移民の生活がどのように変化しうるのか,また渡加時点の子育て支援を取り巻く環境の違いによる施設利用やネットワーク利用に違いがあるのかを考察できると考え,考察の対象とした。渡加年次を回答拒否された分,及び1989年以前に渡加した2例については,現状に関する彼女らの意見を参考にはしたが,分析対象には含めなかった。
家庭内言語について,新規移民21例中,母語以外に英語を併用しているという回答は3例あったが,いずれも子どもの英語習得のために話すといった程度で,ほぼ全ての家庭で母語が優位であった。渡加後8年以上経った回答者でも,母語が英語である家庭を除けば5家庭中3家庭で母語を,2家庭で英語と併用するにとどまっていた。
協力者の子どもに対する続柄については,No.17とNo24が祖母であった場合を除いて,全て母親であった。
協力者の居住地は,現在全てSouth Parkdale内で,21名中3名は他の地区からSouth
Parkdaleに引越ししてきており,残りの18名は渡加以来この地区に住んでいる。
V 移民の特性と子育てネットワークの関係
本章では回答者の特性と子育て支援施設を知った経緯,子育てに関する疑問や悩みの相談相手との関係を基に,子育てネットワークとしてのエスニックネットワークと近隣ネットワークの活用状況について述べるる。はじめに支援施設を知った経緯や相談相手,当初両ネットワークの活用状況を考える上で考察対象にしていたヘルスケアに関する情報源について,それぞれ単独にどのような傾向があるのかを述べておく。ヘルスケアの情報源については記憶していない方が多く,単独で傾向を見ることはできたが回答者の特性との関係を分析するにはサンプルが少なく,事実を捉えてることができたとは考えにくい。
1) 子育て支援施設を知った経緯
経緯については図6にあるように人から聞いたという回答が最も多かった。偶然通りかかって知ったという施設は4例ともParenting
Centreで小学校内にあるという立地がその要因であると思われる。聞いた人がどのような人であったかについて,具体的には出産時に医師や看護婦から聞いたり,上の子が通う幼稚園の先生に教えてもらったりとのことであった。異なるエスニックオリジンの人が情報提供者であった場合は全員,同一エスニックオリジンの人であっても10人中9人が近隣に住む人であった。よって,支援施設を知った経緯として同一エスニックオリジンの人から聞くというのが一番多く,一見するとエスニックネットワークが大きく作用しているように見えるが,異なるエスニックオリジンの人も合わせると近隣に住むという条件に当てはまる人が14例であったことから,支援施設の情報源としてはエスニックという条件以上に近隣であるという条件が大きな影響を及ぼしているようである。
2) 子育てに関する疑問や悩みの相談相手
相談相手として,同一エスニックオリジンの人か異なるエスニックオリジンの人かという点を重視して分類すると,32回答中6)同一エスニックオリジンが13例,利用施設の先生やスタッフが10例,South Parkdale地区外に住む親戚が3例,異なるエスニックオリジンが6例であった。しかし,質問票には記載しなかったが,同一エスニックオリジンと答えた場合,母国にいる時から知っていた人だったのか,South Parkdale地区に来てから知り合ったのかということを質問した。その結果,No.18とNo.19は夫同士が母国で知り合いだったことと,No.14は先に移民していた夫がカナダで知り合った家族であったことを除くと,残りの10例は相談相手とは近隣地区内で知り合ったということだった。また,利用施設の先生やスタッフ,異なるエスニックオリジンの人には各施設や同じアパートだから知り合ったということだった。よって,相談相手の選択に当たってはエスニックネットワークが近隣ネットワークよりも優位ということは必ずしも言えず,近隣ネットワークの中で構築されたエスニックネットワークを活用しているというのが,実情ではないかと考えられる。
|
表2 子育てに関する疑問や悩み相談をする相手 |
|
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同一エスニックオリジンの人 |
13 |
|
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|
利用施設の先生やスタッフ |
10 |
|
|
|
異なるエスニックオリジンの人 |
6 |
|
|
|
地区外に住む親戚 |
3 |
|
|
|
合計 |
32 |
|
|
|
|
|
|
|
|
地区内居住者※ |
26 |
|
|
|
地区外居住者 |
6 |
|
|
|
|
|
|
|
地区内居住者 |
10 |
|
||
地区外居住者 |
3 |
|
||
※利用施設の先生やスタッフの場合,地区内居住とは限らないが地区内でアクセスできるということから地区内居住者に含めた。 |
||||
3) ヘルスケアの情報源
ヘルスケアに関する情報とは,ファミリードクターを選ぶ際の情報や予防接種や子どもの健康に関する情報のことであり,情報源は図7のとおりである。はっきりと記憶していない回答者が多く有効回答数は21であったが,複数回答としたので回答数は27例であった。ファミリードクターを探すに当たっては,同一エスニックオリジンの友人や広告,コミュニティセンターが主で,ファミリードクターを見つけた後は基本的に医師や看護婦,保健婦に聞くようだ。
調査前年度に,歯の健康管理や歯科医院に関してParenting Centreの先生に相談している保護者がいたので,各施設のスタッフがヘルスケアの情報源となりうると想定していたが,実際にはそのような回答は得られなかった。
4)英語の習得度
本節では英語の習得度が各ネットワーク利用に与える影響に付いて述べる。英語の習得度については本調査では,語学力を測るテストを質問票に組み込むのではなく,回答者が利用している施設や病院などでの英語による意思疎通で理解できないと思う頻度を問い,回答者本人の主観的な指標を用いた。これは、実際の語学力を測ることが困難であったということ以上に、客観的にはレベルが高くても,本人が英語に対して苦手意識をもっている場合は母語を用いることを好むであろうし、客観的にはレベルが低くても,本人が自分は英語ができると思っている場合は英語を用いることを厭わないと考えられ,その本人の気持ちが異なるエスニック出身者との接触に影響を与えると考えられるからである。よって,ここで用いる習得度の高さは必ずしも事実ではなく,実際の調査でもこちらの受ける印象と回答が一致していないことも数例あった。
なお,英語の習得度に関しては渡加当時と現在について訊ねている。
(a)英語の習得度と子育て支援施設に関する情報
子育て支援施設に関する情報は渡加当時既に各施設に通う適齢期にあった子どもがいた場合は渡加当時の英語の習得度を基に分析した。渡加当時子どもがいなかった場合に関しては子どもが生まれた時期が渡加当時と現在のどちらに近いかによって,近い方の英語力を基に分析した7)。その結果,英語力の違いによる施設の情報源に違いは見られなかった。
(b)英語の習得度と相談相手
習得度と相談相手の関係については,現状と渡加当時について考察した。その結果,現在の英語の習得度による相談相手の違いについては明らかな違いが見られなかった。しかし,渡加当時の英語の習得度で見ると,同一エスニックオリジンの人を相談相手として選んでいる13人中10人が理解できないと思う頻度が「時々」から「常に」と答えている。異なるエスニックオリジンの人を選んでいる4人は,英語が母語である1人を含めて理解できないと思ったことが「めったにない」もしくは「全くない」と答えている。習得度の変化によって相談相手が変化することも考えられるが,予備調査中に相談相手に関しては相手の属性と言うよりは信頼できる相手かどうかということが重要だと言う指摘を受けた。よって,相談相手に関しては渡加当初から交流を持って信頼関係を築いた相手であることが多いと考えられ,渡加当初の英語力と相談相手の間に調査結果のような傾向が看られたことも当然だと考えられる。
表3 英語の習熟度と相談相手 |
||||||
|
全くない |
めったにない |
時々 |
頻繁に |
常に |
総数 |
同一エスニックオリジンの人 |
2 |
1 |
5 |
4 |
1 |
13 |
異なるエスニックオリジンの人 |
2 |
2 |
0 |
0 |
0 |
4 |
5)移民形態の相違
カナダに移民する場合,以下の6つのいずれかの形で移民することになる。@Skilled
Worker Class Immigration,ABusiness Class Immigration,BProvincial Nomination,CFamily
Class Immigration,DInternational Adoption,EQuebec-Selected Immigration。また,移民とは別に難民という形で渡加するケースも考えられる。ただ,上記6つの類型の内,調査対象者が幼い子を抱えた新規移民であることからDの可能性はなく,BとEの可能性もきわめて低いこと,他の形態と区別する必要性がないと考えられたので質問項目にはあげなかった。ここでは詳しくその条件を述べないが,Business
Classとして移民するには相当の資産が必要で,Skilled Worker ClassかBusiness
Classを区別することによって移民の経済力を推測することができるが,調査対象者に含まれている可能性は低いことと,何よりも調査を行う中で,Skilled
Worker ClassかBusiness Class かと聞いても,協力者が専業主婦であることが多かったからかどちらか認識しておらず,Cか,Landed
immigrantか難民だという答えしか得ることができなかった。この質問では家族や親戚に保証されて移民するので,渡加前から何らかのネットワークが存在しているか,家族単位で移民してきて渡加前から何らかのネットワークが期待できないのか,どうかを知ることが目的であるので,難民かその他特殊な例でない場合はSponsored
immigrantかそうでないかという区別に留めた。
(a)移民形態と子育て支援施設に関する情報
ポスターやチラシを見て知った人とコミュニティセンターで知ったという人は,それぞれ3人と1人で少数ではあるが,この4人全員が家族ごと移民してきた人々である。この少ないサンプル数では断定することはできないが,家族や親戚に保証された移民は渡加以前に保証人が構築したネットワークが存在しているので,上記のようなルートから情報を得る必要がないのに対して,家族単位で移民した人々は全くのゼロからの出発なので自分で何とかしなければという意識が強く,上記のようなルートも開拓していったのではないかと思われる。
「偶然通りかかった」と「人から聞いた」という項目に関しては移民形態による差はみられなかった。
(b)移民形態と相談相手
移民形態と相談相手の間には有意な関係は見られなかった。
その他,学歴,エスニシティに関してはそれぞれの違いによるネットワークの活用に,傾向を述べるほど大きな違いはみられなかった。エスニシティに関して,中国系の移民はエスニック・近隣ネットワークも利用しながら,インターネットやコミュニティセンターを利用して,自ら積極的に情報源を開拓している印象を受けた。子育て支援施設及び子育て支援情報を提供している施設に関して3ヶ所以上利用経験があるのが9人いたが,その内の6人,中国系の回答者全員が含まれていたことに中国系の行動力が現れていると考えられるが,回答者のエスニシティに偏りがあり,事実であるかどうか証明するには不十分であると思われる。
W 子育てネットワークの構築,利用に影響を与えるもの
V章では移民の特性と近隣・エスニックネットワークの関係について述べたが,本章ではネットワーク構築や利用に与える他の要因について述べる。
1)移動距離の制限
新規移民にとってエスニックネットワークが重要であることは本調査の結果を見なくとも,想像に難くないだろう。しかし,今回の結果から近隣ネットワークも,特に近隣で利用できるサービスに関する情報については重要な情報源の一つとして活用されていることが分かった。それには,今回の調査対象が幼い子を抱えた新規移民であることが大きく関わっていると考えられる。
落合(2004)は,核家族が多い都市部では親族ネットワークを利用できないために,近隣ネットワークの重要性が増すことを指摘している。今回の調査対象者も,カナダに親族がいると答えたのは25人中6人いたものの,親族と同居していると回答したのは1人で,後の24世帯は核家族である。また,親族がいると答えた残り5人に関しても,South
Parkdale内に住んでいる親族がいないため,彼らも親族ネットワークが利用できないと言う点でほぼ同じ境遇にあると考えられる。
近隣ネットワークが発達する要因として,South Parkdale地区の子育て中の住民にとって公共交通機関が利用しにくいことが更にその傾向を強めているのではないかと思われる。South Parkdaleでは図8あるように,バスはLansdowne Aveを北上するものが地区の北端をわずかに通過するのみで,公共交通機関を利用しようと思えば,多くの住民はストリートカーを利用することになる。このバス路線では低床バスも運行されているが,多くのバスには階段がついており,乳母車で移動する乳幼児を抱えた保護者にとっては利用しにくいものである。また,ストリートカーに至っては低床のものは全くなく,バスの階段よりも狭く急勾配であるため乳母車で利用することは極めて困難で,日常的に利用することはまず考えにくい。このことは,質問票の中で仮に今利用している施設がSouth Parkdale地区外にあったとしたら利用するかと言う質問に対して,多くの回答者が施設や団体のサポートに満足しているにも関わらず8),25人中23人が利用しないもしくは歩いていける範囲ならと答えていることや次のParenting Centreの先生の言葉からも明らかである。
さっき私が「母車は車で運ぶから!」って何度も言ってたのは,いつも,はじめはみんな行くって言うのに遠足の日が近づいてくると参加希望者が減っていくから。色々な理由をつけて断るけど,結局は乳母車で移動するのが面倒なのね。だから,今回は車を出して乳母車だけ別に運ぶことにしたの。
このように子育てが元々抱える移動距離の制限に加えて,この地区で利用できる交通機関の不便さが近隣ネットワークの利用を促進していると考えられる。
2)経済力
今回は調査項目の中に含めなかったが,経済力は子育て支援施設の利用に影響を与えるものと思われる。事実,利用施設に加えて欲しいと思う項目を聞いた際,チャイルドケアという答えがあったが,有料のチャイルドケアはどこにでもあり,保育時間が短いというのであればベビーシッターを雇うこともできる。しかし,利用施設で提供して欲しいという理由には,今回調査した各施設が基本的に無料であるという点が大きく関わっているように思われる。よって,経済力の違いが子育て支援の利用状況に影響を与えるのであれば,結果的には経済力が各ネットワーク利用にも影響を与えるものと思われる。
X終わりに
1)まとめ
今回の調査ではサンプル数が少なく、また調査対象地区で非公用語以外の家庭内言語話者として最も多く、1991年から2001年の10年間で750人が移民してきたベトナム人に関して1世帯しか聞き取りを行う事ができなかったなど、1997年から2001年の5年間の移民出身国上位7カ国を含むものの,エスニックの偏りが見られるために、この結果を持ってSouth
Parkdale地区の全新規移民の各ネットワーク利用に関して述べることはできない。しかし、幼い子を抱えた新規移民が子育てネットワークとして近隣ネットワークとエスニックネットワークをどのように活用しているのか,傾向を見ることはできたと思う。
調査の前年度ボランティアとしてSouth Parkdale地区で新規移民の方々と触れ合っている時には,それぞれのエスニック団体や協会への関わりを耳にすることがなく,各施設を利用している保護者やコミュニティキッチンや他のイベントへの参加者を見ていてもエスニシティを意識しているようには見えなかった。そこで,新規移民の割合が高いこの地区では同一エスニックという連帯感以上に,South
Parkdale地区の住民としての連帯感,もしくは同じ新規移民としての連帯感から近隣ネットワークの方がエスニックネットワークよりも優勢であるのかという疑問を抱いていた。しかし,今回の調査を通して,エスニック団体や協会へ参加していないことがエスニックへのこだわりやエスニックネットワークの重要性の低さを証明するものではなく,母語による意思疎通の簡便さや文化や価値観の違いによる軋轢の少なさから,エスニックネットワークは新規移民が子育てを含むカナダでの新生活を営むに当たって,重要な役割を果たしていることが分かった。ただ,エスニックネットワークの選択が必ずしも意図的ではなく,大量の新規移民が流入しているSouth
Parkdaleであるがゆえに,新規移民はわざわざ異なるエスニックグループにアプローチしなくとも,近隣に同一エスニックグループが存在するので,結果的にエスニックネットワークを利用することが多くなったという側面もある。また,近隣ネットワークの利用がすなわち,エスニックへのこだわりの低さを示すものでもなく,子育て中,且つ今回の調査対象者のように6歳以下の乳幼児を抱えた保護者にとって,移動できる距離は限られており,近隣ネットワークを利用せざるを得ないというケースもある。このように,エスニックネットワーク・近隣ネットワークの利用にはエスニックへのこだわりだけでなく,同一エスニックグループの有無や近隣ネットワーク構築を助ける子育て支援施設の存在,移動可能距離の制限といった空間的な要素が影響しているものと考えられる。
2)今後の課題
今回の調査の協力者は,エスニックネットワークや近隣ネットワークをうまく活用しながら,若干の改善や新たなサービスの要望を持っているものの,概ねSouth
Parkdale地区で提供されている子育て支援に満足しているようだった。しかし,彼らは言わば各ネットワークをうまく活用し,子育て支援を享受することに成功した人々であり,実際にはこのような支援を知らずに家に閉じこもって社会的に孤立している家族がいると思われる。調査中にも,「偶然同じアパートの人が教えてくれたからよかったが,現在通っている施設を知るまでは,渡加して半年ぐらい買い物以外,家に子どもと篭りっきりだった」というような話を3人から伺った。そのような人々にもサービスを知ってもらうために,一軒,一軒ドアをノックして地区内で提供されているサービスの紹介を行うアウトリーチ活動が行われているが,私営のアパートには訪問できないことが多い。また,違法なので実数は分からないが新規移民の中には高い賃貸料に耐えられず,数家族で一戸を共有することもあり,そのような人々は固くドアを閉ざしているのでアウトリーチ活動で彼らに接することはできない。このような提供者側からのアプローチが届きにくい立場にいる新規移民に情報を伝えるにはどのような方法があるのか考える必要があるだろう。
(20361字)
<付記>
本稿の執筆及び調査に当たってご指導下さいました山崎孝史先生,並びに大阪市立大学文学部地理学教室の諸先生方,経済学部の長尾謙吉先生に深く感謝いたします。また,現地での調査では質問票のチェックや示唆に富む助言を下さったCommunity
Parent Outreach Program,Parenting Centre,Creating Togetherのスタッフの皆様,末筆ではございますが快く調査に協力して下さった皆様に厚く御礼申し上げます。
注
1) 新規移民とは2001年センサスを基に作られたトロント市のホームページ内,「近隣地区プロファイル」及び「新規移民調査プロファイル」においてRecent
immigrantsを各センサス実施年の過去5年以内に移民した人々を指していることから,移民数や出身国に関するデータを2001年センサスから得ている本稿では1997年以降に移民した人々のことを表す。
2) 現在のトロント市は1998年に周辺の五都市(East York,Etobicoke, North York,
Scarborough, York)との合併によって誕生した。South Parkdale地区は旧トロント市に属し、トロント市のインナーシティである。
3) 実際の人口は22844人だが,以下エスニックオリジンや移民年次,家庭内言語について20%サンプルデータを用いたので,総人口もそれに合わせた。
4) 名称も必ずしもFamily Resource Centreだけでなく,Family Enrichment Centre等様々である。
5) Family Resource Centreでは親だけでなく,祖父母等の親族や個人的に自宅で子どもを預かっているcare
giverと呼ばれる人々も利用対象者としているので,保護者という言葉を用いた。
6) 複数回答なので,合計は25人を超える。
7) 渡加時点で施設に通う適齢期にあった子どもがいた移民は10人で,子どもがいなかった移民は15人である。
8) 当初,質問票制作過程で施設や団体のサービス利用者が,受けている支援に満足しているかどうかを問う問いを設定しようとしたが,利用している施設で調査を行う以上,否定的な回答は答えにくいと考え,Q26で付け加えて欲しい,もしくは変更して欲しいプログラムやサービスがあるかどうかを訊ね,特にないと答えた場合は概ね満足しているものと考えた。また,直接質問で問うたわけではないがQ48において,様々な支援団体がより効率よく新規移民に出産や育児に情報を提供するにはどうすればいいと思うかと質問している時に,多くの回答者から彼らはよくやっていると思う。という回答が返ってきたことからも多くの人が提供されているサービスに満足しているものと考えられる。
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