第3回 ウィリアム・カルロス・ウィリアムズ
 
先回のパウンドの『詩章』の第1歌(第1篇や第1章とも言及)は引用のみで注釈がついていなかったのを憶えていますか。その理由は、みなさんの自発的な読解に期待するという面と、実は引用のほとんどが訳注にもあったように、ホメロス(ホーマー)の『オデュッセイア』の創作的な翻訳であるからです。つまり、パウンドの場合、彼の詩の独自性は多分に詩の内容に関するよりは、その創作的翻訳の手法に関して意味があると思われるからです。エリオットの詩作品における過去の文学典拠の問題はもっぱら、そういった引用が現作品に与える衝撃が問題となりますが、パウンドの場合は、そのような引用自体がすでにパウンド的フィルターを経た創作的導入であるので、創造的翻案という厄介な問題が発生します(このような面は取り扱いませんでした)。
 
今回扱うウィリアムズ(William Carlos Williams, 1883-1963)という詩人は、このような問題を解決しようと、かつてないほどに意識的に実践したと思われます。しかもウィリアムズの場合は、表面上は過去の文芸作品というような伝統を一切拒絶して書いています。これは、現代詩において詩が扱うべきテーマや題材とは何であってもよい、ただ言語においてそういった素材を扱う方法こそが詩の意味のすべてである、あるいは、詩における言葉は事物と等価であるため、そのような事物から出来上がった機械のように詩を考えるべきだ、という彼の信念に基づいているようです。
 
A poem is a small (or large) machine made of words. When I say there's nothing sentimental about a poem I mean that there can be no part, as in any other machine, that is redundant . . . Its movement is intrinsic, undulant, a physical more than a literary character. Therefore each speech having its own character, the poetry it engenders will be peculiar to that speech also in its own intrinsic form. The effect is beauty, what in a single object resolves our complex feelings of propriety . . . When a man makes a poem, makes it, mind you, he takes words as he finds them interrelated about him and composes themwithout distortion which would mar their exact significances─into an intense expression of his perceptions and ardors that they may constitute a revelation in the speech that he uses. It isn't what he says that counts as a work of art, it's what he makes, with such intensity of perception that it lives with an intrinsic movement of its own to verify its authenticity. (quoted from Intro. to the Selected Poems of William Carlos Williams [New Directions, 1963], pp. xv-xvi)
 
詩とは単語からなる小さな(あるいは大きな)機械である。わたしが詩について何にも感傷的なことはないと言うとき、わたしが意味しているのは、どんな機械におけるように、余計な部分は何一つありえないということである。[中略]その動きは本来備わっているものであり、波打つ動作のように、文学的性格であるよりは、肉体的性質である。従って、各々の言葉はそれ自身の性質をもち、それが生みだ出す詩も言葉がそれ自身本来もっている形式に固有なものとなる。その効果は美となり、一個の物体においてすら、われわれの複雑な所有感情を解決するものとなる。[中略]ひとが詩をつくるとき、そう、わたしはつくると言っているのだが、そのひとは自身について相関関係をもつ状態で言葉を受け取り、それらを組み立てるのである。それも言葉の正確な意味作用を損なう歪曲なしに、自身が使用する言葉によって啓示を構成するような知覚と情熱の強烈な表現において行うのである。芸術作品として重要なのは、何を言うかではなく、かくも烈しい知覚でもってみずからの正統性を確証づける本来の動きで呼吸するように、どうつくるか、である。
 
このように述べる詩人は徹底して、その主題の選別にあたっては無差別的に行い、その形式も即興的です。例えば、「赤い手押車」という詩があります。
 
  The Red Wheelbarrow
 
      so much depends
      upon
 
      a red wheel
      barrow
 
      glazed with rain
      water
 
      beside the white
      chickens.
             (from Spring and All [1923]; Selected Poems, p. 30)
 
      あまり沢山
      のっかっている
 
      一台の赤い
      手押車に
 
      雨の滴
      でキラキラと
 
      側に白い
      ニワトリたち。
            (鍵谷幸信訳、『現代詩集U』[新潮社]、61-62頁)
 
どうでしょう。訳者はこの詩について「ウィリアムズの初期を代表する詩であり、多くのアンソロジーに収録されている。この詩人のイマジストとしての面がいかんなく発揮されたもので、色彩効果が簡潔な表現の中によく出ている。些細な現実を適格に描く点注目に値するものだ。ここにあるのはただ一台の手押車と白いニワトリ、光る雨滴だけである。行分けの詩文になっているから誰しも詩と思うが、もし書き流したら危うく散文になりかねない。しかしこうしたことを書いた詩人はウィリアムズの前にも後にも彼しかいなかった。ウィリアムズの初期の詩は短詩型が多く、行の語数も少ない。一見俳句を思わせるような形式と内容を備え、エッセンスだけを切りとった感じがする」と述べています*。
*村野四郎という詩人はウィリアムズのこういった面に多大な影響を受けた詩人といわれていますが、興味をもった方は彼の詩集を読んでください。
ただ読者によれば、なぜ "so much depends"なのか。「かくも沢山」とは一体何が沢山あるのか、と文字通りストレートに質問する人もいるでしょう。もちろん、それがなんであれ、作者の意図としては、以下の "a red wheel barrow glazed with rain water beside the white chickens"という散文的に再構成されうる事物に注意を向けるために、しかも行分けされているために、個々の単語がなるほど「啓示を構成するような知覚と情熱の強烈な表現」を獲得すべく、陳列されているのは納得がいくのですが、興味ある問題です(でもこれは同時に躓きの石にもなりえます)。
 
パウンドの詩が翻訳ともつかない創作という独創性の問題を抱えているように、ウィリアムズも単なる事物的な詩(彼自身、「事物主義」Objectivism という呼称を用いていますがが[The Autobiography of William Carlos Williams, p. 265])であるという非難を回避するために苦労しています。例えば、旧友のスティーヴンズに自分の詩集(Collected Poems 1921-1931 [1934])の序文(Stevens, Opus Posthumousにも収録)を書いてもらったのですが、そのスティーヴンズの序文が期待したような内容でなかった(スティーヴンズは彼を容認された事物の感覚を否定する点で既に「ロマン派的」であると規定し、とりわけ、感傷に対抗する「感傷的な」側面があると説明し、最終的に「反詩的なるものが彼の精神の癒しである」と宣告する)ので、序文など依頼しなかったらよかったと苦々しい気持ちで述懐したことがあります。*
   *このようなライバル詩人同士の評価は学者の下す評価以上に実は本質的な批評となっている場合があり、同様にスティーヴンズのマリアン・ムーア詩集の書評(上記の序文と同じく、スティーヴンズ『遺稿集』に収録)やウィリアムズ自身のスティーヴンズの書評に対する反対意見(Imaginations [New Directions, 1970], pp. 14-16)など興味深いものがあります。
 
ここで、さらにこのような詩のあり方の問題を探求するまえに、少し彼の経歴を見ておきたいと思います(以下はマージョリー・パーロフや広岡実という学者によるものです*)。
*もっと詳しくは、Paul Mariani による伝記William Carlos William: A New World Naked (McGrow Hill, 1981)を読んでみてください。
 
ウィリアム・カルロス・ウィリアムズは英国人の父とバスク人とユダヤ人の混血でプエルトリコ生まれの母のあいだに1883年9月17日に生まれた。詩人のミドル・ネームはパナマ市で医業を営む母方の叔父の名から採った。息子ウィリアムが地元の女フローレンス(「フロス」)・ハーマンとそこで結婚し、生涯医業を営んだニュージャージー州ラザフォードの町に、そもそも両親が当時は小さなその田舎町に移り住んだとき、彼らはたがいの英国国教会とカトリックの信仰を捨て、地元の社会に同化すべく、当時は節制と世間体の要塞であったユニテリアン派教会に入った。父ウィリアム・ジョージ・ウィリアムズはあきらかに最も規則正しい生活を送った、というのも、彼は香水製造会社に勤めるニューヨーク市に日々通勤したからだ。母レイケル・エレーン・ローズ・ホウエブ・ウィリアムズは夫と対照的に、息子曰く「落ちぶれたロマンチスト」[詩人の母親の評伝 Yes, Mrs. Williams, p.33]であった。若い頃彼女はパリで絵画を学んだことがあり、芸術家気質の気まぐれ、異国趣味で田舎町ラザフォードでは全く浮いていた。
 この両者の結合の産物としてウィリアム・カルロス・ウィリアムズは多くの面で当時の生粋に第一世代のアメリカ人であった。彼は自身が芸術家気質の「むつかしい」母親と親近であったのと同様、父親に対してはその決心と社会的体裁維持の姿勢を尊敬していた。さらに彼は両親の外国人らしさを補うかのように、自身は積極的にアメリカ人らしくなろうとした。つまり、詩人たるものは自身の地域を歌うべきであり、「アメリカ語法」以外で書いてはならず、アメリカのリズムを排他的に作り上げるべきである、と主張したのだ。彼はエリオットや、ペンシルヴァニア大学での学友パウンドに対しては特に、ヨーロッパに寝返ったことを嘆いた。自身は古いアメリカ人の家系であるパウンドでさえ、以下のようにウィリアムズの愛国主義をなじったことがある。
 
で、アメリカについてなんだが。一体全体、大の外国人の君がアメリカについて何を知っていると言うんだい。君の父さんはアメリカ大陸の端に到達したにすぎなくて、君は[ペンシルヴァニア州]ダービーの上方以西に、つまり、モーンチャンク山岳鉄道以西に行ったことがないくせに。
 果たして、下着に大平原の風を運ぶヒルダ [H. D.]やマッチョな [カール・]サンドバーグたちが女性的な東海岸の人間である君を真のアメリカ人として認めるだろうか。そんなことはありえんよ!!!!![中略]
 君の精神を分かり難くし、アメリカ的観念形成の流れが毒された水切りボールのように精神を通過するのを妨げるのに十分なだけあるスペイン人の血に対し、君の神さまに感謝するがいい。
 君の作品を救っているのはその分かり難さなんだ。そいつを忘れるんじゃないよ。分かり難さ(オパシティ)とは決してアメリカ的な性質じゃないんだ。シューシュー、ヒューヒュー、ガアガア、といった言い回しは純然たるアメリカ産のものなんだ。[Kora in Hell, 11]
 
このロンドンからの手紙でパウンドはふざけた調子で書いているが、彼はウィリアムズの詩についてとても重要なことを感じとったのである。つまり、「十分なだけあるスペイン人の血」は、実際には一方でカール・サンドバーグやエドガー・リー・マスターズの写実主義モデルの回避を意味し、他方「お上品な伝統」流派の言葉遣いの否定を意味したからである。「分かり難さ」と呼ばれたウィリアムズのスタイルは詩語やことばの洗練の問題ではなく、[中略] 作詩法上の、構文や意味論的異化の問題、つまり、パウンドの言う現実的な「アメリカ的観念形成」の世界に、ダダや疑似シュールレアリスム的流れの注入を行っている問題なのである・・・(Marjorie Perloff, "William Carlos Williams," Helen Vendler, ed. Voices and Visions [Random House, 1987], pp. 163-64)。
 
・・・ウィリアムズが自分のものとした世界は、ニュージャージー州北部郊外のラザフォードを中心とするアメリカ北東部である。[中略]受けた教育は国際的である。ラザフォードの公立学校で七年間、スイスやパリで二年間の教育を受け、ニューヨーク市のハイスクールからペンシルヴァニア大学医学部に入学する。そしてパウンド、ヒルダ・ドゥーリトル(Hilda Doolittle)、チャールズ・デムース(Charles Demutrh)と知り合う。ニューヨーク市の病院でインターンを務めた後、ライプチヒで医学を学び、イギリス、フランス、イタリア、スペインを旅行する。一九一○年ラザフォードに戻って開業してから一九六三年八十歳で死亡するまで、チェーホフ以後の最も重要な医師兼作家として、ラザフォードで過ごした。
 かれが少年時代を過ごしたラザフォードは、まだ都会化されていない田園社会で、自然との接触がかれのパストラリズムとリリシズムを育てた。しかし二十世紀になってニュージャージーの北部は世界でも最も醜悪な場所へと変貌した。人間の無感覚な自然破壊と荒廃、それに伴う創造的能力の浸食とコミュニケーションの崩壊を彼は鋭敏に感じていた。
 彼は医者として患者と親しく接し、約二千人の赤ん坊を助け、四十九冊の本を書いた。六百編に及ぶ詩作品、五十二の短編、四編の小説、四編の戯曲、一編のオペラ台本、それにエッセイ、批評、自伝、書簡、母親の回想記、アメリカ歴史書、五部から成る長編詩『パタソン』(Paterson, 1946-58)、以上がウィリアムズの功績である。その厖大な業績に彼の活力の偉大さを認めざるをえない。
 彼は最後まで伝統的な思想や形態への反抗者であり、たえざる実験家であり、そして特にすばらしい抒情詩人だった。その創意性と科学や芸術上の変化に対する敏感な反応によって、彼の文学は言葉と形式において、「原型的にアメリカ的」[James Mazzaro, William Carlos Williams, p.vii]であった。彼は第二次世界大戦後、多くの若い詩人たちによってアメリカの守護詩人として仰がれ、学者、批評家からも正当な評価を受けるようになった。
 現代アメリカの意識の一つの自己実現としてみた場合、彼の文学は,同世代のスティーヴンズ、パウンド、エリオットのそれらに見られなかった重要なものを補完していると言えるだろう。彼は他の詩人たちよりも、アメリカの生活の豊かさと空虚さにより開放的に反応した。彼はアメリカ口語の平板なリズムとダンスのリズムにより鋭く耳を傾け、都市や田園の荒廃と同時に思いがけぬ美をより鋭く観察し、アメリカ人の直接の歴史的基盤を強烈に探求した。我々は彼の文学にヒューマニズムとすぐれた技巧のより豊かな結合を見いだすのである。(広岡実「ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ」『アメリカ文学の自己形成』[山口書店]所収、420-21頁)
 
パーロフ女史の解説も故・広岡氏による解説もともにわたしには正当なものと思えますが、これはもちろん、出発点にすぎません(引用の出典である双方の論文はもちろん、導入的かつ専門的な議論になっていますが)。そこで、私たちとしては、以前からそうしているように、最も特徴的な作品を味わうことで、そのような詩的世界に旅立つとしましょう。
 
以下は長詩『パターソン』2巻(Book Two)の一部ですが、246頁もある長編小説のような長詩は五巻(付録として六巻)もある代物で、詳しくは訳詞を引用した沢崎順之介氏の解説を参照して頂きたいですが、実はそのいずれもある程度、独立して読んでも十分に読み応えのある内容となっています。つまり、全体の枠組みを敢えて無視することで、部分的な話に一応の詩的実体を捉えたく思います。訳注にあるように、パターソンという土地から生じさせた地霊的な神話的巨人を考えなくても、詩人が日曜日の公園で、ひたすら耳を澄まし、古い新聞記事を読み、いっちゃつくカップルなどを横目に、自分の書いた手紙やもらった手紙を密かに読み返したり、近くの山へ登るといった設定で読むだけでも十分に純粋な詩的経験ができます。引用だけで分量はかなりのものになりますが、短編小説を読むつもりで詩人の語りに耳を傾け、想像の翼を広げてください(わたし自身の解説はごくごく最小限に最後にします)。では、今回は休憩なしで、アメリカの町へ旅をしましょう!
 
Sunday in the Park
 
1
 
  Outside
          outside myself
                 there is a world,
  he rumbled, subject to my incursions
  a world
         (to me) at rest,
             which I approach
  concretely
 
        The scene's the Park
        upon the rock,
        female to the city
 
  upon whose body Paterson instructs his thoughts
  (concretely)
 
           late spring,
        a Sunday afternoon!
 
  and goes by the footpath to the cliff (counting:
  the proof)
 
        himself among the others,
  treads there the same stones
  on which their feet slip as they climb,
  paced by their dogs!
 
  laughing, calling to each other
 
             Wait for me!
 
  . . the ugly legs of the young girls,
  pistons to powerful for delicacy!   .
  the men's arms, red, used to heat and cold,
  to toss quartered beeves and  .
 
               Yah! Yah! Yah! Yah!
 
  over-riding
           the risks:
                  pouring down!
  For the flower of a day!
 
  Arrived breathless, after a hard climb he,
  looks back (beautiful but expensive!) to
  the pearl-grey towers! Re-turns
  and starts, possessive, through the trees,
 
              ─ that love,
  that is not, is not in those terms
  to which I'm still the positive
  in spite of all;
  the ground dry, passive-possessive
 
  Walking ─
 
       Thickets gather about groups of squat sand-pine,
       all but from bare rock  .  .
 
       a scattering of man-high cedars (sharp cones),
       antlered sumac  .
 
       roots, for the most part, writhing
       upon the surface
              (so close are we to ruin every
       day!)
        searching the punk-dry rot
 
  Walking ─
 
   The body is tilted slightly forward from the basic standing
   position and the weight thrown on the ball of the foot,
   while the other thigh is lifted and the leg and opposite
   arm are swung forward (fig. 6B). Various muscles, aided  .
 
  Despite my having said that I'd never write to you again, I do so
  now because I find, with the passing of time, that the outcome of
  my failure with you has been the complete damming up of all my
  creative capacities in a particularly disastrous manner such as I
  have never before experienced.
   For a great many weeks now (whenever I've tried to write po-
  etry) every thought I've had, even every feeling, has been struck
  off some surface crust of myself which began gathering when I
  first sensed that you were ignoring the real contents of my last
  letters to you, and which finally congealed into some impenetrable
  substance without even an explanation.
   That kind of blockage, exiling one's self from one's selfhave
  you ever experienced it? I dare say you have, at moments; and if
  so, you can well understand what a serious psychological injury
  it amounts to when turned into a permanent day-to-day condition.
 
          How do I love you? These!
 
    (He hears! Voices . indeterminate! Sees them
    moving, in groups, by twos and fours filtering
    off by way of the many bypaths)
 
     I asked him, What do you do?
 
     He smiled patiently, The typical American question.
    In Europe they would ask, What are you doing? Or,
    What are you doing now?
 
     What do I do? I listen, to the water falling. (No
    sound of it here but with the wind!) This is my entire
    occupation.
 
   No fairer day ever dawned anymore than May 2, 1880, when
  the German Singing Societies of Paterson met on Garret Mountain,
  as they did many years before on the first Sunday in May.
   However the meeting of 1880 proved a fatal day, when William
  Dalzell, who owned a piece of property near the scene of the fes-
  tivities, shot John Joseph Van Houten. Dalzell claimed that the
  visitors had in previous years walked over his garden and was
  determined that this year he would stop them from crossing any
  part of his grounds.
   Immediately after the shot the quiet group of singers was turned
  into an infuriated mob who would take Dalzell into their own
  hands. The mob then proceeded to burn the barn into which Dalzell
  had retreated from the angry group.
   Dalzell fired at the approaching mob from a window in the barn
  and one of the bullets struck a little girl in the cheek. . . . Some of
  the Paterson Police rushed Dalzell out of the barn [to] the house of
  John Ferguson some half furlong away.
   The crowd now numbered some ten thousand,
            "a great beast!"
          for many had come from the city to join the
  conflict. The case looked serious, for the Police were greatly out-
  numbered. The crowd then tried to burn the Ferguson house and
  it was that Sergeant John McBride suggested that it might be well
  to send for William McNulty, Dean of Saint Joseph's Catholic
  Church.
   In a moment the Dean set on a plan. He proceeded to the scene
  in a hack. Taking Dalzell by the arm, in full view of the infuriated
  mob, he led the man to the hack and seating himself by his side,
  ordered the driver to proceed. The crowd hesitated, bewildered
  between the bravery of the Dean and  .
 
       Signs everywhere of birds nesting, while
       in the air, slow, a crow zigzags
       with heavy wings before the wasp-thrusts
       of smaller birds circling about him
       that dive from above stabbing for his eyes
 
  Walking
 
    he leaves the path, finds hard going
    across-field, stubble and matted brambles
    seeming a pasturebut no pasture
    old furrows, to say labor sweated or
    had sweated here    .
                    a flame,
    spent.
        The file-sharp grass  .
   
    When! from before his feet, half tripping,
    picking a way, there starts   .
          a flight of empurpled wings!
    invisibly created (their
    jackets dust-grey) from the dust kindled
    to sudden ardor!
 
         They fly away, churring! until
    their strength spent they plunge
    to the coarse cover again and disappear
    but leave, livening the mind, a flashing
    of wings and a churring song   .
 
    AND a grasshopper of red basalt, boot-long,
    tumbles from the core of his mind,
    a rubble-bank disintegrating beneath a
    tropic downpour
 
    Chapultepec! grasshopper hill!
 
    a matt stone solicitously instructed
    to bear away some rumor
    of the living presence that has preceded
    it, out-precedented its breath   .
    These wings do not unfold for flight
    no need!
    the weight (to the hand) finding
    a counter-weight or counter buoyancy
    by the mind's wings  .
 
    He is afraid! What then?
 
    Before his feet, at each step, the flight
    is renewed. A burst of wings, a quick
    churring sound   :
 
       couriers to the ceremonial of love!
 
    aflame in flight!
         ─aflame only in flight!
 
               No flesh but the caress!
 
    He is led forward by their announcing wings.
 
  If that situation with you (your ignoring those particular letters
  and then your final note) had belonged to the inevitable lacrimae
  rerum (as did, for instance, my experience with Z.) its result could
  not have been (as it has been) to destroy the validity for me myself
  of myself, because in that case nothing to do with my sense of
  personal identity would have been maimedthe cause of one's
  frustrations in such instances being not in one's self nor in the other
  person but merely in the sorry scheme of things. But since your
  ignoring those letters was not "natural" in that sense (or rather since
  to regard it as unnatural I am forced, psychologically, to feel that
  what I wrote you about, was sufficiently trivial and unimportant and
  absurd to merit your evasion) it could not but follow that that
  whole side of life connected with those letters should in consequence
  take on for my own self that same kind of unreality and inacces-
  sibiity which the inner lives of other people often have for us.
 
    his mind a red stone carved to be
    endless flight  .
    Love that is a stone endlessly in flight,
    so long as stone shall last bearing
    the chisel's stroke   .
 
    .  .  and is lost and covered
    with ash, falls from an undermined bank
    and begins churring!
    AND DOES, the stone after the life!
 
    The stone lives, the flesh dies
    we know nothing of death.
 
    boot long
    window-eyes that front the whole head,
           Red stone! as if
    a light still clung in them  .
 
    Love
             combatting sleep
                    
             the sleep
    piecemeal
 
   Shortly after midnight, August 20, 1878, special officer Goodridge,
  when, in front of the Franklin House, heard a strange squealing
  noise down towards Ellison Street. Running to see what was the
  matter, he found a cat at bay under the water table at Clark's hard-
  ware store on the corner, confronting a strange black animal too
  small to be a cat and entirely too large for a rat. The officer ran up
  to the spot and the animal got in under the grating of the cellar
  window, from which it frequently poked its head with a lightning
  rapidly. Mr. Goodridge made several strikes at it with his club but
  was unable to hit it. Then officer Keyes came along and as soon as
  he saw it, he said it was a mink, which confirmed the theory that
  Mr. Goodridge had already formed. Both tried for a while to hit
  it with their clubs but were unable to do so, when finally officer
  Goodridge drew his pistol and fired a shot at the animal. The shot
  evidently missed its mark, but the noise and powder so frightened
  the little joker that it jumped out into the street, and made down
  into Ellison Street at a wrongful gait, closely followed by the two
  officers. The mink finally disappeared down a cellar window under
  the grocery store below Spangermacher's lager beer saloon, and
  that was the last seen of it. The cellar was examined again in the
  morning, but nothing further could be discovered of the little critter
  that had caused so much fun.
 
     Without invention nothing is well spaced,
     unless the mind change, unless
     the stars are new measured, according
     to their relative positions, the
     line will not change, the necessity
     will not matriculate: unless there is
     a new mind there cannot be a new
     line, the old will go on
     repeating itself with recurring
     deadliness: without invention
     nothing lies under the witch-hazel
     bush, the alder does not grow from among
     the hummocks margining all the
     but spent channel of the old swale,
     the small foot-prints
     of the mice under the overhanging
     tufts of the bunch-grass will not
     appear: without invention the line
     will never again take on its ancient
     divisions when the word, a supple word,
     lived in it, crumbled now to chalk.
 
     Under the bush they lie protected
     from the offending sun
     11 o'clock
           They seem to talk
  a park, devoted to pleasure :devoted to . grasshoppers!
 
     3 colored girls, of age! stroll by
     their color flagrant,
          their voices vagrant
     their laughter wild, flagellant, dissociated
     from the fixed scene .
 
     But the white girl, her head
     upon an arm, a butt between her fingers
     lies under the bush  .  .
 
     Semi-naked, facing her, a sunshade
     over his eyes,
     he talks with her
 
     ─the jalopy half hid
     behind them in the trees
     I bought a new bathing suite, just
 
     pants and a brassier :
     the breasts and
     the pudenda coveredbeneath
 
     the sun in frank vulgarity.
     Minds beaten thin
     by wasteamong
 
     the working classes SOME sort
     of breakdown
     has occurred. Semi-roused
 
     they lie upon their blanket
     face to face,
     mottled by the shadows of the leaves
 
     upon them, unannoyed,
     at least here unchallenged.
     Not undignified.  .  .
 
      talking, flagrant beyond all talk
      in perfect domesticity
      And having bathed
 
      and having eaten (a few
      sandwiches)
      their pitiful thoughts do meet
 
      in the fleshsurrounded
      by churring loves! Gay wings
      to bear them (in sleep)
 
      their thoughts alight,
      away
      .  .  among the grass
 
  Walking ─
 
      across the old swalea dry wave in the ground
      tho'marked still by the line of Indian alders
 
      .  .  they (the Indians) would weave
      in and out, unseen, among them along the stream
 
      .  come out whooping between the log
      house and men working the field, cut them
      off! they having left their arms in the block-
      house, andwithout defensecarry them away
      into captivity. One old man  .
 
          Forget it! for God's sake, Cut
          out that stuff  .
 
  Walking ─
 
      he rejoined the path and sees, on a treeless
      knollthe red path choking it
      a stone wall, a sort of circular
      redoubt against the sky, barren and
      unoccupied. Mount. Why not?
 
                   A chipmunk,
      with tail erect, scampers among the stones.
 
      (Thus the mind grows, up flinty pinnacles)
 
       but as he leans, in his stride,
      at sight of a flint arrrow-head
                (it is not)
                     there
      in the distance, to the north, appear
      to him the chronic hills
 
              Well, so they are.
 
                 He stops short:
      Who's here?
 
          To a stone bench, to which she' leashed,
  within the wall a man in tweedsa pipe hooked in his jawis
  combing out a new-washed Collie bitch. The deliberate comb-
  strokes part the long haireven her face he combs though her
  legs tremble slightlyuntil it lies, as he designs, like ripples
  in white sand giving off its clean-dog odor. The floor, stone
  slabs, she stands patiently before his caresses in that bare "sea
  chamber"
 
          to the right
     from this vantage, the observation tower
     in the middle distance stands up prominently
     from its public grove
                           
  Dear B.  Please excuse me for not having told you this when I was
  over to your house. I had no courage to answer your questions so
  I'll write it. Your dog is going to have puppies although I prayed
  she would be okey. It wasn't that she was left alone as she never
  was but I used to let her out at dinner time while I hung up
  my clothes. At the time, it was on a Thursday, my mother-in-law had
  some sheets and table cloths out on the end of the line. I figured the
  dogs wouldn't come as long as I was there and none came thru my
  yard or near the apartment. He must have come between your
  hedge and the house. Every few seconds I would run to the end
  of the line or peek under the sheets to see if Musty was alright. She
  was until I looked a minute too late. I took sticks and stones after
  the dog but he wouldn't beat it. George gave me plenty of hell and
  I started praying that I had frightened the other dog so much that
  nothing had happened. I know you'll be cursing like a son-of-a-gun
  and probably won't ever speak to me again for not having told
  you. Don't think I haven't been worrying about Musty. She's occu-
  pied my mind every day since that awful event. You won't think
  so highly of me now and feel like protecting me. Instead I'll bet
  you could kill . . .
 
       And still the picknickers come on, now
       early afternoon, and scatter through the
       trees over the fenced-in acres  .
 
                    Voices!
       multiple and inarticulate  .  voices
       clattering loudly to the sun, to
       the clouds. Voices!
       assaulting the air gaily from all sides.
 
       ─among which the ear strains to catch
       the movement of one voice among the rest
       a reed-like voice
                of peculiar accent
 
       Thus she finds what peace there is, reclines,
       before his approach, stroked
       by their clambering feetfor pleasure
 
                 It is all for
       pleasure . their feet  .  aimlessly
          wandering
 
       The "great beast" come to sun himself
                    as he may
       .  .  their dreams mingling,
       aloof
 
       Let us be reasonable!
 
                Sunday in the park,
       limited by the escarpment, eastward; to
       the west abutting on the old road: recreation
       with a view! the binoculars chained
       to anchored stanchions along the east wall
          beyond which, a hawk
                       soars!
 
       a trumpet sounds fitfully.
 
       Stand at the rampart (use a metronome
       if your ear is deficient, one made in Hungary
       if you prefer)
       and look away north by east where the church
       spires still spend their wits against
       the sky    to the ball-park
       in the hollow with its minute figures running
       beyond the gap where the river
       plunges into the narrow gorge, unseen
 
       and the imagination soars, as a voice
       beckons, a thundrous voice, endless
       as sleep: the voice
       that has ineluctably called them
                that unmoving roar!
       churches and factories
               (at a price)
       together, summoned them from the pit .
 
       his voice, one among many (unheard)
       moving under all.
 
               The mountain quivers.
       Time! Count! Sever and mark time!
 
       So during the early afternoon, from place
       to place he moves,
       his voice mingling with other voices
       the voice in his voice
       opening his old throat, blowing out his lips,
       kindling his mind (more
       than his mind will kindle)
 
             ─following the hikers.
 
       At last he comes to the idlers' favorite
       haunts, the picturesque summit, where
       the blue-stone (rust-red where exposed)
       has been faulted at various levels
              (ferns rife among the stones)
       into rough terraces and partly clothes in
       dens of sweet grass, the ground gently sloping.
 
       Loiterers in groups straggle
       over the bare rock-tablescratched by their
       boot-nails more than the glacier scratched
       themwalking indifferent through
       each other's privacy  .
 
                 in any case,
       the center of movement, the core of gaiety.
       Here a young man, perhaps sixteen,
       is sitting with his back to the rock among
       some ferns playing a guitar, dead pan  .
 
       The rest are eating and drinking.
 
                    The big guy
       in the black hat is too full to move  .
 
                      but Mary
       is up!
           Come on! Wassa ma'? You got
       broken leg?
 
               It is this air!
                   the air of the Midi
       and the old cultures intoxicates them:
       present!
 
          lifts one arm holding the cymbals
       of her thoughts, cocks her old head
       and dances! raising her skirts:
 
                  La la la la!
 
       What a bunch of bums! Afraid somebody see
       you?   .
          Blah!
              Excrementi!
                  she spits.
       Look a' me, Grandma! Everybody too damn
       lazy.
 
       This is the old, the very old, old upon old,
       the undying: even to the minute gestures,
       the hand holding the cup, the wine
       spilling, the arm stained by it:
                     Remember
 
       the peion in the lost
       Eisenstein film drinking
 
       from a wine-skin with the abandon
       of a horse drinking
 
       so that it slopped down his chin?
       down his neck, dribbling
 
       over his shurt-front and down
       onto his pantslaughing, toothless?
 
                Heavenly man!
 
  the leg raised, verisimilitude  .
  even to the coarse contours of the leg, the
  bovine touch! The leer, the cave of it,
  the female of it facing the male, the satyr
    (Priapus!)
  with that lonely implication, goatherd
  and goat, fertility, the attack, drunk,
  cleaned  .
 
      Rejected. Even the film
  suppressed : but  .  persistent
 
       The picknickers laugh on the rocks celebrating
       the varied Sunday of their loves with
       its declining light
 
  Walking
 
       look down (from a ledge) into the grassy
       den
        (somewhat removed from the traffic)
                above whose brows
       a moon! where she lies sweating at his side:
 
              She stirs, distraught,
       against himwounded (drunk), moves
       against him (a lump) desiring,
       against him, bored  .
 
       flagrantly bored and sleeping, a
       beer bottle still grasped spear-like
       in his hand  .
 
       while the small, sleepless boys, who
       have climbed the columnar rocks
       overhanging the pair (where they lie
       overt upon the grass, besieged
 
       careless in their narrow cell under
       the crowd's feet) stare down,
                  from history!
       at them, puzzled and in the sexless
       light (of childhood) bored equally,
       go charging off  .
 
               There where
       the movement throbs openly
       and you can hear the Evangelist shouting!
 
               ─moving nearer
          shelean as a goatleans
          her lean belly to the man's backside
          toying with the clips of his
          suspenders   .
       to which he adds his useless voice:
       until there moves in his sleep
       a music that is whole, unequivocal (in
       his sleep, sweating in his sleeplaboring
       against sleep, agasp!)
                and does not waken.
 
       Sees, alive (asleep)
            ─the fall's roar entering
       his sleep (to be fulfilled)
                    reborn
       in his sleepscattered over the mountain
       severally   .
 
          by which he woos her, severally.
 
       And the amnesic crowd (the scattered),
       called about ─ strains
       to catch the movement of one voice  .
 
                      hears,
            Pleasure! Pleasure!
 
                      ─feels,
       half dismayed, the afternoon of complex
       voices its own
             and is relieved
                   (relived)
 
          A cop is directing traffic
          across the main road up
          a little wooded slope toward
          the conveniences:
                    oaks, choke-cherry,
       dogwoods, white and green, iron-wood :
       humped roots mated into the shadow soil
       mostly gone: rock out-croppings
       polished by the feet of the picknickers:
       sweetbarked sassafras  .
 
       leaning from the rancid grease:
                    deformity
 
       to be deciphered (a horn, a trumpet!)
       an elucidation by multiplicity
       a corrosion, a parasitic curd, a clarion
       for belief, to be good dogs  :
 
  NO DOGS ALLOWED AT LARGE IN THIS PARK
            (Paterson [1963年New Directions版], pp.43-61)
 
公園の日曜日
 
そとに                        季節は晩春(前巻の季節は早春)。
       わたしのそとに              巨人パターソンが巨人ギャレッ
              一つの世界があり、     ト・マウンテンに登り、パターソ
わたしの侵入を受ける、とかれは呟いた           ン市民は群をなして(一匹の巨大
──それは休息している(ようにわたしには見える)      なけだものとなって)登り、詩人
        一つの世界であり、            パターソンは観察者、語り手とな
              そこに具体的に       って登る。WCW自身の解説によ
近づいていく──                    ればこの巻は都市パターソン(あ
                           るいはアメリカ)の「モダン・レ
     場所は公園で                 プリカ」である。
     それは岩盤の上にあり
     都市にとっては女性である
──その肉体にパターソンはかれの考えを(具体的に)注入する
 
      ──時は晩春、
     日曜日の午後!
 
──そして小道を通って断崖に出る(歩数を数える──
実証する)
 
     自分もひとに混じって
──小道の石を踏んでいくと
ひとは登りながらその石に足を滑らせている。
先頭に立っているのはイヌだ!              イヌは自然、とくに性の欲望を表
                                   している。
大声で笑い、たがいに呼びあう──
 
           ちょっと待って!
 
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 娘たちの醜い脚は
 優雅とはいえない力強いピストン!・ ・ ・         
 男たちの腕は、赤らみ、寒暑に慣れ、
 解体した牛の肉を抛り投げるのに適している・ ・ ・
 
          ヤー!ヤー!ヤー!ヤー!
――難所を
       乗りきると、
            一日の花を得ようとして!     「一日の花」すなわち快楽。
流れくだる!
 
きつい登りのあと、息を切らして辿り着き、
振りかえると見えるのは(美しいが金のかけすぎ!)
青みがかった真珠色の建造物!ふたたび向きを変えて
木立のなかを、所有欲満々、入っていく、
 
         ―― あの恋愛は、         「あの恋愛」とはクレスとのものか。
もう終わったが、なにがなんでも
こちらのほうで積極的になる
そういう関係のものでもない。
大地は乾いている、――受動的で所有欲満々
歩いていく ――
 
   茂みは地を這うサンドパインの群れの周囲にかたまり、
   露出した岩盤からそのまま生い出ている・ ・ ・ ・ ・ ・  「露出した岩盤」は永遠である自
                           然、女性を思わせる。以下も同じ。
   ――背丈ほどのヒマラヤ杉(鋭角的な円錐形)が点在し、
   枝角を生やしたウルシがある・ ・ ・
 
   ――木の根は、ほとんどが、地表をのたうっており
         (われわれは毎日それほど
   死の間近にいる!)
      腐木のように乾いた土くれを求めている
 
歩いていく ――
 
  からだを、直立の基本姿勢からやや前方に傾け、体重を      医学雑誌より。
  足の親指の膨らみに懸け、もう一方の脚の腿を上げ、
  脚とその逆の腕を前方に振る(図6b)。さまざまな
  筋肉は、補助的な・ ・ ・
 
もうお手紙いたしませんと申しましたのに、いまこのようにお手紙を差し上げますのは、 クレスの手紙2
時日が経過するにつれて、先生とうまくいかなくなった結果が、いままで経験したことも
ないようなとりわけ悲惨な形でわたしの創作力の一切を完全に閉塞させてしまったことに
気づいたからです。
 もう何週間ものあいだ(詩を書こうとするといつもなのですが)浮かんだあらゆる考え、
いえ、あらゆる感情が、わたしの表面の殻にぶつかって揆ねつけられてしまうのです。
その殻は、差しあげた最後の手紙の真の内容を先生は無視しておられると初めて
気づいたとき以来固まりはじめて、手紙を書くのをやめてくれとまったくなんの説明も
なしにおっしゃられたときとうとう突き通せないものに硬化してしまったのです。
 自分が自分から阻害されてしまう、そのような閉塞状況――先生に経験が
おありでしょうか?たぶんときどきはおありだったと思います。そしておありだっと
するならば、それが永続的に日常の状況となってしまったとき、どんなに心理的に
深刻な傷になるかお分かりいただけると思います。
 
     どのように愛しているかって?これらの!    一途な愛を歌うエリザベス・ブラ
                          ウニング『ポルトガル女からのソ
  (かれには聞こえる!声が・ ・ ・漠然と!声の主が   ネット』43からの皮肉なエコー。
  ふたり、四人、連れだっていくのが見え、――多くの
  わき道に入って流れていく)。
 
   ワタシハカレニ訊ネタ、ナニガオ仕事デスカ?
   カレハ辛抱強ク微笑ンデ、ソレハ典型的ニあめりか人ノ質問デス。
   よーろっぱデハコウ訊ネルデショウ、ナニヲシテオラレマスカ?
   アルイハ、イマハナニヲシテオラレマスカ?
 
    ナニガワタシノ仕事カッテ?滝ノ音ヲ聴クコトデス。(ココデハ
   風ノ音ニマジッテシカ聞コエマセン!)コレガワタシノ仕事ノ
   全部デス。
 
 一八八○年五月二日はこのうえもない美しい夜明けだった。五月の最初の
日曜日に長年行ってきたことだが、パターソン・ドイツ人合唱団協会がギャレット・
マウンテンで集会を開いた。
 しかし一八八○年のこの集会は実は恐ろしい一日になった。催し会場のちかく
に地所を持っていたウィリアム・ダルゼルが、ジョン・ジョウゼフ・ヴァン・ホウテンを
射殺してしまったのだ。ダルゼルはここ数年来参加者が庭に入って踏み荒らしている
と言い、ことしは敷地に一歩も立ち入らせないつもりだと決意していた。
 射殺後すぐ、それまでおとなしかった合唱団は怒り狂った群衆に一変し、ダルゼル
を捕まえようとした。さらに、ダルゼルが怒りの群衆から逃れて潜んだ納屋に、火をつけ
ようとした。
 ダルゼルは近づいてくる群衆に納屋の窓から発砲し、一発が小さな女の子の頬に
当たった・ ・ ・ ・ パターソン警察の数人がダルゼルを納屋から追いだし、ダル
ゼルは一○○メートル離れたジョン・ファーガソンの家[に]入った。
 群衆はいまや一万人に達した。
            「一匹の巨大なけだもの!」    民衆に言及したハミルトンの
          大勢が町からやってきて騒動に加わった。 言葉。以後何度か繰りかえ
事態は深刻な様相になった。群衆の数が警察官を圧倒した。   される。この語句の挿入は
群衆はそれからファーガソンの家に放火しようとしたので、   WCW。
ダルゼルはジョン・マクガキンの家に入りこんだ。
ジョン・マクブライド巡査部長が聖ヨセフ・カトリック教会
の司教ウィリアム・マクナルティを呼んできたらいいと提案
したのは、ダルゼルがこの家にいるときだった。
 司教はすぐに計画を立てた。貸し馬車に乗って現場に乗りこみ、
怒り狂った群衆みんなが見ているまえで、ダルゼルの腕をつかみ、
馬車のところまで連れていって、かれの横に腰をおろすと、
御者に出発するように命じた。群衆がためらい、戸惑った
のは、司教の勇気と・・・
 
     いたるところ小鳥が巣籠もりしている気配がある。   まえの散文を引きつぐ
     空にはゆっくりと一羽のカラスが大きく羽ばたいており、 群れる小人と孤独なヒー
     からだのずっと小さな鳥がまわりを旋回して       ロー。
     スズメバチ攻撃で上空からその目を突こうとして
     急降下するのをカラスは右に左にかわしている。
 
歩いていく――
 
     道を逸れて須佐地を横断しはじめるが、
     ひどく歩きにくい。刈り株や密生したイバラは
     牧草地のように見えて――牧草地ではなく・ ・ ・
     ――古い耕地だった。ここで農夫が汗を注いだというか
     かつて汗を注いだことがあって・ ・ ・
                     炎が
     燃え尽きたのだ。
 
          やすりのように鋭い草だ・ ・ ・
 
     そのとき!よろけながら道を探しているかれの
     足もとから飛びたったのは・ ・ ・
             紫色の羽の群れ!
     ――目に見えぬところで土から作られ
     (表の羽はまさに土灰色)とつぜん情熱が        交尾期のバッタ。
     燃えあがった!
 
           ジジジ!と飛びたって、
     力尽きるとふたたび荒れた
     草むらのなかに飛びこんで姿を消すが
     ――こころを生き生きとさせ、あとに羽の
     きらめきとジジジという羽音を残す・ ・ ・
 
     すると赤玄武岩でできた深靴の長さのバッタが   『ナショナル・ジオグラフィック』
     かれの心の核からころげ出てくる。        誌1968年9月号にこのバッタ
     分壊層の斜面が熱帯性の豪雨で        の石像の記事と写真が掲載された。
     崩壊したのだ
 
     あれはチャパルテペックだった!バッタの丘だった!
 
     ――その息吹きの先例となった
     生きたバッタがいて、
     鈍色の石はそのおもかげを
     伝えるよう入念に教えこまれた・ ・ ・
 
     この羽は飛ぶために開くことはない――
     その必要がない!
     その重さには(手の感じでは)心の
     羽に支えられて反重力あるいは
     反浮力がある・ ・ ・
 
     かれは恐れるつぎはどうなる?
     足もとから、一歩ごとに、あらたに
     飛行が始まる。どっと飛びたつ羽、
     ジジジという慌ただしい音――
 
       愛の儀式の布告!
 
     ――飛行して燃え!
           ――飛行してのみ燃え!
 
                肉のない愛撫!
     かれは布告する羽に先導されて歩いていく。
 
先生とのこの事態(あの何通かの特別な手紙を無視なさって短い最後   クレスの手紙3(2と同
通告をくださったこと)が例のお涙頂戴といったものでしたら(たとえばZ   じ手紙の一部)。文体は
との経験がそうでしたが)その結果はわたし自身にとってわたしの健全性   凝ったもので、WCW
が破壊されるようなことは(じっさいはそうなっているのですが)なかった    のアメリカ口語体との
でしょう。なぜならそのような場合わたしの主体性の意識に関わるものは   コントラストを作り
なに一つ損なわれることはなかったと思われるからです――ひとがそう    出している。
した状況で挫折する理由は、自分自身にも、あるいは相手にもなく、
その惨めな成りゆきにあるからです。しかし先生があの手紙を無視され
たことはその意味で「自然」ではありませんでした(というか、それを不
自然と思うために、先生に差しあげた手紙は無視されて当然の些細な、
つまらない、ばかげたものだったと思いこむように心理的に強いられる
ことになりました)ので、人生のうちのあの手紙に関わる部分すべてが、
結果として、他人の内面生活がしばしばわれわれに対して帯びるの
とまったく同じような非現実性、不可解性を当のわたし本人にとって
帯びるようにならざるをえなくなりました。
 
     ――かれの心も赤い石なのだ
     永遠に跳びつづけるように彫られている・ ・ ・
     愛は、鑿のあとが残るかぎり
     永遠に飛行しつづける
     石なのだ・ ・ ・
 
     ・ ・ ・ ・ ・ ・ いったん失せて土砂に
     埋まり、崩壊した斜面からころげ落ち
     そして──ジジジと羽音を立てはじめ!
     そして行う、命のあとの石なのだ!
 
     石は生き残り、肉は死ぬ
     ──死とは何なのだろう。
 
     ──深靴の長さがあり、
     頭の前面に窓のような眼をした
            赤い石よ!まるで
     光りがまだ眼のなかに漂っているかのようだ・ ・ ・
 
     愛は
              眠りと闘い
              ─────
              その眠りは
     とぎれとぎれ
 
 一八七八年八月二十日真夜中をすこし過ぎたころ、グッドリッジ巡査部長は、  捉えがたい小現実。
フランクリン・ハウスのまえまで来て、エリソン・ストリートのほうから あるいは人間社会
奇妙な鳴き声がするのを耳にした。なにごとかと走っていくと、角のクラ  のなかの手に負え
ーク金物店の水切り石のしたにネコが追いつめられていて、ネコにしては  ない自然(情熱)。
小さく、ネズミよりはずっと大きい奇妙な黒い動物と向かいあっていた。
巡査部長がその場に走りよると、その動物は地下室の窓の格子のしたに入
りこんで、そこからときおり稲妻のような敏捷さで頭を突きだした。グッド
リッジ氏は警棒で何度か突ついてみたが、当たらなかった。やがてキーズ
巡査がやってきて、その動物を見るとすぐに、ミンクだと言った。それは
グッドリッジ氏がすでに固めていた説を確証するものだった。ふたりはしば
らく警棒で叩こうとしてみたが、うまくいかなかった。それでグッドリッジ
巡査部長はピストルを取りだして、ピストルを取りだして、その動物に向けて
発砲した。弾丸が標的をはずれたようだったが、その小さないたずら者は音
と火薬の匂いにびっくりして、通りに飛びだし、ものすごい速さでエリソン・
ストリートを逃げていった。そのすぐあとをふたりの巡査が迫った。ミンクは
シュパンガーマッヘルのラーガービール・サロンのさきの乾物屋の地下室の窓
のしたに消え、それが姿の見られた最後だった。翌朝、地下室をふたたび調査
したが、大騒ぎを起こした小動物はもう発見できなかった。
 
     発明がなければ、なにごとも整わない。
     心が変化し、星が相互の
     位置関係によってあらたに
     計らなければ、詩行は
     変化せず、変化の必要性は
     認知されないだろう。新しい
心がなければ、新しい
詩行はありえないし、古いものが
たえず死を漂わせながら
繰りかえされるだけだろう。発明がなければ、
マンサクの茂みに横たわるものなく、
ハンノキは往時の湿地帯の
涸れかかった水路沿いの
土手に生い育つことなく、
バンチグラスの覆いかぶさる
葉のしたに野ネズミの小さな
足跡が現れることもないだろう。
発明がなければ、詩行は二度と
昔の韻律を得られない。昔はその韻律に
言葉が、しなやかな言葉が生きていたが、
いまはそれがチョークのように崩れてしまった。
 
茂みに、強い太陽の光を避けて
ふたりが横たわっている──
十一時
話をしているらしい
 
──公園、その使命は快楽──その使命は・ ・ ・ バッタ!
 
     三人の黒人女、はたちになったばかり!が通りすぎる
     ──肌の色は燃えあがり、
声はあてどなく、
笑いは奔放でけたたましく、その固定した
シーンとは無関係だ・・・
 
しかし白人女は頭を
男の腕に乗せ、たばこを指に挟んで
茂みに横たわり・・・・・・
 
男は半裸で、女に向かい、
日除け帽を目深にかぶって、
話をしている
 
──ぼろ自動車が背後の木立に
半分隠れている──
新しい水着を買ったの、
 
パンツとブラジャーだけの ──
覆うのは乳房と
陰部──太陽のしたの
 
露骨な俗悪。
ひとの心は浪費によって
浅薄にのめされている──
 
労働者階級に
ある種の瓦解が
生じている。ぼんやりと
 
ふたりは向き合って
毛布を敷いて横たわっている。
木の葉の影がまだらに
 
差すが、うるさくはないし、
すくなくともここなら邪魔はない。
堂々とさえしている。・ ・ ・ ・ ・ ・
 
話は、まったく日常的な
一切の話を超えて燃えたち──
そして陽を浴び
 
そしてものを食べ
(幾切れかのサンドイッチを食べ)
その哀れな二つの考えとは
 
肉に出会う──まわりは
ジジジと鳴る愛の群れ!陽気な
羽がふたりを(眠るうちに)運び
 
──ふたりの考えは降りたって、
消える
・ ・ ・ ・ ・ ・ 草むらのなかに
 
歩いていく ──
 
     その往時の湿地帯は──いまは干上がって波うつ草原だが、
いまでもインディアン・ハンノキの列が水路を跡づけており、
 
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ かつてかれら(インディアン)は水路沿いの
ハンノキのあいだを見つからないように出入りして湿地帯を越え
 
・ ・ ・ ヒュヒューと声を発して現れ、
丸太小屋と農場ではたらく農民とのあいだを
切断!武器は防塞に置いてあり、
それで──なすすべなく──農民は
捕虜になって連れ去られた。ある老人は・ ・ ・
 
   忘れよう!なるべくなら、この
   話はやめよう・ ・ ・
 
歩いていく ──
 
ふたたび元の道に戻り、赤い道が首を
絞めるように丘を巻いている、その丘の
裸の頂上に、石の城壁、一種の円形堡が、
空を背景に建っているのを見る。荒れていて、
無人。上がってみるかな?もちろん。
 
シマリスが
尾を立てて、石垣のあいだを跳ねまわる。
 
こうして心のほうは燧石の尖塔のうえに舞いあがる
 
・ ・ ・しかし大股で歩いていって、
燧石の鏃を見つけて身を乗りだすと
(それは鏃ではなく)
      ──そこに
遠く、北の方角に、かれにとっては
永遠である丘陵が見えてくる・ ・ ・
 
まああれこそ永遠のものだ。
 
   かれは急に足を止める──
そこにいるのはだれだ。
 
     城壁の内側に、ツイードの服を着た男が   エリオット「プルフロ
──口にパイプを咥えて──洗ってやったばかりの牝イヌのコリーを   ック」の床に寝そべる
石のベンチにつないで櫛で梳かしている。慎重に櫛を入れて長い毛   仮病のイヌを参照せよ。
を分け──脚をかすかに震わせているが、顔の部分まで梳かし──  そしてその最終スタンザ
ついに、清潔なイヌの匂いを発散する、白砂に寄せるさざ波のような、  の語句「海の部屋」を
思いどおりの毛並みに仕上げる。そのがらんとした「海の部屋」での   参照せよ。
愛撫を待って、牝イヌは床の敷石をじっと我慢している
 
・ ・ ・ この高みから
右手を見ると、なかほどの距離に
展望塔があり、それが陰毛のような森から
ぐっと突きだしている
 
親愛なるBさま。お宅に伺ったときにこの件についてお話しませんでした  前述の牝イヌと
ことをお許しください。聞かれてもお答えする勇気がなかったのです。そ  同一であるのか
れでお手紙します。じつはお宅のワンちゃんは子供を産むことになりそう  どうか。いかに
なのです。そうでないことを祈っていますけれど。ちゃんといつもの通り  防ごうとしても
していて、ほっぽらかしにしたわけではありません。ただお昼どきで、わ  手に負えない自然
たしが洗濯物を掛けているあいだは、放すことにしてありました。そのと  (情熱)。
きは、木曜日のことでしたが、義母がシーツとテーブルクロスを洗濯紐の
はしに掛けていました。わたしがいるかぎり、牡イヌどもはやってこない
だろうと思っていました。うちの庭のなかやアパートの近くを通ったのは
一匹もいませんでした。その牡イヌはお宅の生け垣と家のあいだを通って
やってきたにちがいありません。ほんとに数秒ごと、洗濯紐のさきまで走
っていったりシーツのしたから覗いたりして、マスティが大丈夫か見てい
ました。でも気がついたときは一分遅かったのです。棒を振って石を投げ
て追いかけましたが、牡イヌは逃げようとしませんでした。わたしはジョ
ージにさんざんぶたれました。あのときマスティはひどくおびえたから、
なにも起こらなかったかもしれない、と思ってみたりしました。うんと叱
られることは覚悟しています。早くに申しあげなかったから、もう二度と
声をかけてくださらないでしょうね。マスティのことを心配していなかっ
たわけじゃありません。あの恐ろしい出来事があって毎日気にかかってい
ました。もうわたしのことを褒めてくれたり、世話してくださる気にはな
らないでしょう。それどころかきっと殺してしまいたいような・・・
 
     そして行楽客はまだぞくぞくとやって来る。
時間は正午を回ったあたり。木立を抜けて
垣をめぐらした広場に散らばる・・・
声がする!
さまざまな、不明瞭な・・・声が
太陽に、雲に向かって大声で
しゃっべている。 声がする!
四方八方から陽気に大気に襲いかかる。
 
──耳はそれらの声に混じって聞こえる
一つの声の動きをとらえようとする            巨人パターソンの声。
──独特の調子の
笛のような声
 
こうして彼女はせめてもの静けさを見つけて、   「彼女」は巨人ギャレット・
かれの来るまえに、よじ登る群衆の足に      マウンテン、「かれ」は巨人
撫でられながら、横になって──快楽を待つ     パターソン。
 
ひたすら快楽を
求めて・・・群衆の足は・・・あてどなく
    さまよう
 
許されて陽を浴びにやってきた
              「巨大なけだもの」
・・・・・・夢は混じりあい、しかも
孤立している
 
筋の通った話にしよう!
 
        公園の日曜日、
公園は東のほうは急斜面で区切られ、西は
古い道路が境界になっている。休暇を楽しめる
すばらしい眺望だ!双眼鏡が東壁の
固定した柱に鎖で括りつけられてい──
そのかなたを一羽のタカが
舞う!
 
──トランペットが発作的に鳴り響く。      つぎの節のトランペットがすでに
聞こえてくる。
     城壁に立って(耳に欠陥があるなら
     メトロノームを、好みならばハンガリー製のを、
使って)
北微東のほうを見渡すと、教会の
尖塔が数本いまなお空に対抗して
小才を費やしている・・・野球場のほうを見ると
凹みのなかで小さな人影が走っている
──その手まえのくびれた箇所で、ここからは
見えないが、川は峡谷へ落ち込んでいく
 
──そして雷のような、眠りのように
果てしない、一つの声に誘われて
想像力が舞う。それは有無を言わさず
群衆を呼び寄せてきた声──
        あの不動の轟音である!
教会も工場もともども
        (代価を払って)
地底から呼び出されたものだ・ ・ ・
 
──かれの声は多くの声に混じって(聞こえずに)
すべてのしたを流れる。
 
         山はこまかく震える。
拍子を!教えて!離れて、足踏み!
こうして昼をすこし過ぎたころに、
かれはあちらこちらと動きまわり、
かれの声はほかの声に混じりあい
──かれの声のなかの声がかれの
喉を開かせ、かれの唇に口笛を吹かせ、
(かれの心が火をつける
以上に)かれの心に火をつけ
 
      ──かれはハイカーのあとを追う。
 
ついにかれは行楽客のお目当ての場所、
景色のいい頂上に達する。そこの
青石は(露出すると赤錆びた色になるが)
いくつかの段階で断層を起こして
       (石の隙間にはシダが生え)
粗い段丘になり、スイートグラスの茂る
半分埋もれた洞窟になり、全体は緩い傾斜をなす。
 
ハイカーは露出した岩石棚に
グループごとに散らばって──氷河が
刻んだ以上に、靴の鋲で岩を掻き刻みながら
──相互のプライバシーを尊重して
無関心ぶって歩いていく・ ・ ・
 
         ──ともかく
ここは動きの中心、賑わいの核だ。
 
そこに十六才くらいの若者がいて、
シダの茂る岩に背をもたれて坐り
無表情にギターを弾いている・ ・ ・
 
他の連中は飲んだり食ったりしている。
 
          黒い帽子の
大男は食べすぎて動くのも臆病だ・ ・ ・
 
          がメアリは
立ちあがった!
   さあ!どうしたのよ!足でも
くじいたの?
 
      この空気のせいだ!
         この南国の空気と
古い風習のせいでかれらは酔う──
いまここにそれがあるのだ!
 
   ──思いのたけをこめて
シンバルを持った腕をかかげ、頭をかしげ、
そして踊る!スカートをまくりあげて、
 
        ラ ラ ラ ラ!
 
なんてお尻だよ!ひとに見られるよ、
おまえ!
   ベーッ!
      エクスクレメンティ!         スペイン語「くそったれ」。
         ──と彼女は唾を吐く。
わたしを見て、おばあちゃん!みんなほんとに
だらしないよ。
 
これは古い、ひじょうに古い、古いも古い、
永遠のもの──細部の身振りにいたるまでそうだ──
たとえば手にカップを持つところとか、ワインがこぼれて
腕がその色に染まるところとか──
 
            覚えているだろうか?
 
 没収になったエイゼンシュタインの映画だが、
 日雇いメキシコ人が飲んでいた。
 
 ウマのように無心に
 皮袋から飲んでいて
 
 ワインは顎からこぼれ落ちて
 首筋を流れ、したたって
 
 シャツの前からパンツのうえを
 濡らし──歯のない口を開けて笑っていた。
             天国の人間のようだった!
 
・ ・ ・ ・ ・ ・脚が跳ねあがる。迫真の画像・ ・ ・
脚の卑猥な曲線や
野牛のような感触まで!その流し目、その洞窟、
その女性性が相対するのは、男性性、サテュロス──
  (プリアポス!)
そこに含まれる寂しさ、ヤギ飼いと
ヤギ、生殖、襲いかかる、酔う、
浄化される・ ・ ・
 
   それが発禁になった。フィルムも
没収された──しかし・ ・ ・ しつこく生き延びる
 
行楽客たちは岩のうえで笑いさざめき、
傾く光りのなか、自分たちの愛のさまざまな
日曜日をことほぐ──
 
歩いていく ──
 
     あの草むらの洞穴を(岩棚から)
     見おろすがいい
       (人通りからはすこし離れている)
               洞窟の庇のうえには
     月がかかる!そして女は男のそばで汗して横たわる──
 
          狂おしくもだえて
     男にもたれかかる──傷ついて(酔いしれて)身を動かし、
     男(太った奴)にもたれかかって欲情し、
     げんなりしながらもたれかかる・ ・ ・
 
     燃えあがってげんなりして眠りながら、
     ビール瓶がまだ男の子に槍の穂先のように
     握られている・ ・ ・
 
     そこへ小さな、眠りを知らぬ子供らが、
     ふたりを覆っている柱状節理岩石のうえに
     登ってきて(包囲されながらふたりは
     草のうえに開けっぴろげに横たわって──
     群衆の足のしたの狭い空洞のなかで
     無頓着でいるのだが)それを歴史の高みから!
               じっと見おろし、
     困惑し、性のない(少年期の)
     光りのもとでかれらと同様にげんなりして、
     すっとんで逃げていくと・ ・ ・
 
             そこでは
     ひとの動きは公然と鼓動しており、
     そこに聞こえるのは伝道者の叫び声だ!
 
              ──にじり寄って
       女は─ヤギのように痩せて──痩せた
       腹を男の背中にすりつけながら
       男のズボン吊りのクリップを
       いじる・ ・ ・
 
     ──それに、男は意味もない声を添える──
やがて男の眠りのなかに動くのは
完璧な紛れようもない音楽である(眠りのなかで、
眠りのなかで汗をかきながら──眠るまいと
あがき、喘いで!)
       ──それでいて目を覚まさない。
 
生きて(眠って)見るのは           巨人パターソンの発電で操作される
   ──滝の轟音が、眠りのなかに     自動人形であるパターソン市民。
入って(充満し)
眠りのなかで
再生し──それぞれに山のうえで
散らばって・ ・ ・
 
    ──それによって男がそれぞれに女を口説く
 
そして健忘症の群衆は(散らばったまま)
呼びとめられて ── 一つの声の
動きを聞きとろうと努め・ ・ ・
 
聞くのは、
快楽を!快楽を!
       ──感ずるのは、
はんぶんは落胆しながらも、行きかう声に満ちた午後が
自分のものであること──
そして息をつき
    (生き返る)
 
 主要道路を横断して
 森の斜面を上って
 便所へ行く道を
 巡査が行楽客に指示している。
 
オーク、シブサクラ、
緑がかった白の花のミズキ、アカシア──
浅い土壌に押しこまれたこぶだらけの根
──ほとんど土は失せている──露出した岩石は
ハイカーの足に踏まれて磨かれている──
甘い樹皮のサッサフラスは・ ・ ・
 
悪臭の獣脂から身を反らしている──
醜悪は──
──解決しなければならない(ホルンよ、トランペットよ!)
多様性を経ての解明だ。
腐食、寄生虫による瘤、良いイヌになろうと
信仰を勧めるクラリオン ──
 
公園内でイヌを放さないこと         イヌを性欲と読みかえると皮肉な公園の提示。
      (以上、訳注[一部割愛]も含め、沢崎順之介訳『パターソン』[思潮社]、p.79-111)
 
以上、ゆったりとした晩春の日曜の午後、少々暑い日差しのなかで詩人が瞑想する様につき合ってきたわけですが、いかがでしたか。まず、最初に "Outside / Outside myself / there is a world" 「そとに わたしのそとに 一つの世界があり」と始まりますが、これはまず、内的な観念世界への訣別を意味します。自己の外にこそ、あらたなる自然や現実の世界が広がっているというわけです。もし19世紀のロマン派詩人や世紀末詩人たちが、自らのこころの中を覗きすぎて外的現実を忘れたり、無視しようとする面があるとすれば、ウィリアムズはここでは断固としてそのような内的志向の詩を否定し、読者にも外界の現実に目を向けさせようとします。
 "subject to my incursions, --a world (to me) at rest, which I approach concretely--"「わたしのうちへの流入するがごとく、世界が存在し、(わたしにとって)休息しているその世界に、わたしは具象的に接近するのだ」と"he rambled"「彼はごろごろと唸るように言った」とありますが、「彼」が誰であれ(詩の場合、たいてい、詩人の分身です)、読者も以下で「場面は公園で 岩のうえ、 街に対して女性的な場所だ」といわれる場所に向けて歩んでいきます。パターソンの街に実際に訪れてみると、公園として広がっているのは、その土地では有名な「パターソン滝」を中心とする地域で、いわゆるダウンタウンからははずれていますが、ほとんどが山際にできた住宅地からも人々の集まる憩いの場所になっていたと記憶します。まさに読者は実際の公園に向かう地形を足で確かめながら、滝を中心とした公園から山のほうへとハイキングするのです。
 "goes by the footpath to the cliff ... treads there the same stones (on which their feet slip as they climb, paced by their dogs!) ... (Yah! Yah! Yah! Yah!) ... over-riding the risks:(pouring down for the flower of a day!) ... arrived breathless ..."という具合に、滑る岩を這い上がって(息せき切って)みんなと一緒に山登りするのです。ようやく頂上とおぼしきところに着いて「振りかえると(なんとも美しいが高価にできた)パール・グレイに輝く街の建物の尖塔が見える」ではありませんか。ふたたび向きを変え、森の中を思い詰めたように歩き始めます。「そうだ、あの恋は、いまでも自分が全てに抗して肯定的だと言いきれるものではないんだ。あれは乾いた大地のようで、受け身で囚われのものだった」とあとで出てくるクレスとの恋愛に想いが行きます・・・「歩いていく」。
 そうです、このように以下でも読者は詩人と一緒になって、以前の恋文や医学雑誌や古い新聞記事や妊娠を止められなかった牝イヌの飼い主へ出した自分の手紙を読んだり、バッタの群れに出会ったり、恋する若者たちや愛犬を撫でる飼い主を眺めたりするのです。原文をまさに舐めるように読むと意外と現実の物音のみならず、なにか神話的な時空間が拡がってくるように思えるのはわたしだけでしょうか*。 
   *以下ではもっとどのような世界が拡がっているのか、勇気のある人は『パターソン』全体ではどのような風景が拡がっているのか、レポートしてください。(今回はここで中断です。次回は夏の浜辺に響く女性の声をテーマにしたスティーヴンズの詩を扱う予定です。)