第18回人間行動分析研究会講演要旨

d-amphetamineとmethylphenidateによる遅延割引関数の変化:
遅延耐性か固執性か?


丹野貴行(関西学院大学・日本学術振興会)




 dopamine作動薬であるd-amphetamineとmethylphenidateの投与は緩やかな遅延割引関数をもたらし、これはADHDの治療薬としての一つの根拠ともなっている。これまでの研究では、直後に呈示される少量の報酬(SS報酬)と遅延後に呈示される多量の報酬(LL報酬)の間の選択において、後者の遅延時間をセッション内で段階的に長くする手続きが用いられてきた。しかしこの手続きでは、(1)遅延耐性が変化した、(2)はじめに形成されるLL報酬への選好が固執した、の2種類の行動メカニズムが分離できていない。本実験では、LL報酬の遅延時間(0・4・8・16・32秒)を段階的に長くした上昇系列群(n = 6)、段階的に短くした下降系列群(n = 6)、またランダムに変化させたランダム系列群(n = 4)を検討した。その結果、d-amphetamine (0.32-1.0 mg/kg) とmethylphenidate (3.2-10 mg/kg) の腹腔投与は上昇系列群では遅延割引関数を上側に変化させたが、下降系列群では下側に変化させ、またランダム系列群では一貫した変化が見られなかった。これより、これまでの研究で確認されていたdopamine作動薬による遅延割引関数の変化は、遅延耐性ではなく、行動固執性の変化によるものであることが示された。