[最終更新日2007年1月17日](「11月26日」)
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今までに開催された例会
2006年
1月28日 | 3月28日 | 6月17日 | 8月18日 | 11月26日
大阪市立大学文化交流センター大セミナー室 大阪駅前第2ビル6階
- 橋本智也
「名詞と動詞の獲得−CHILDES日本語データを用いた分析−」
- 子どもの初期の語彙において、名詞の優位が普遍的であるのかについて論争がある。
論争では、文末で使用される語は強調されるという前提に基づき、
文末に動詞が来る言語で名詞が優位であれば名詞の優位が普遍的であるとされる。
動詞が強調される言語のひとつとして日本語が対象とされてきたが、
文末には動詞の他に終助詞などが来ることも考えられる。
そこで本発表では、CHILDESの日本語コーパスに含まれる父子を対象に文末の動詞を分析した。
使用したデータは、子どもは2歳の始めから終わりまで、父親は0歳の始めから2歳の終わりまでであった。
分析では「父親が動詞を使用する際に終助詞などを伴っているか」、
「子どもが動詞を使用する際に何も伴わずに動詞だけを切り取っているか」という2点を検証した。
結果、父親は末尾に終助詞などを伴って動詞を使用し、その傾向は0-2歳で同じであった。
また子どもも末尾に終助詞などを伴って動詞を使用していた。
これらの結果から、日本語では先行研究で扱われてきたように、
文末で動詞が何も伴わずに強調されていることは少なく、それは父子で共通の傾向であることが明らかとなった。
また伴うのは終助詞が多いということも明らかとなった。
よって動詞だけを切り取って分析する方法には問題があり、
また動詞だけが強調されているわけではなく、
そして子どもは親の発話の末尾を分析的ではなく全体的に受け取っている可能性があることが示唆された。
- 生馬裕子
「第二言語の音韻知覚学習における音響的・意味的文脈の影響」
- 第二言語学習における困難の一つとして,母語で対立しない音素の知覚の習得が挙げられる.
例えば,日本語母語話者にとって英語の⁄r⁄-⁄l⁄音韻の知覚は特に困難であるが,
継続的な単語刺激の聴覚呈示訓練により音韻聴取能力が向上することがわかっている.
一方,文章中の単語の聴取は単語単独刺激の聴取に比べて正答率が低くなるが,
単語同定に利用できる意味情報をもつ文章刺激では単語単独刺激よりも正答率が高くなるというように,
聴取刺激の文脈条件が音韻知覚正答率に影響を及ぼすこともあきらかになっている.
そこで,本研究では,英単語のミニマルペア(″right″-″light″など)の聴取訓練効果に,
訓練刺激の文脈条件が及ぼす影響を調べた.その結果,音響情報のみの音声刺激による訓練では,
素材が単語であっても文章であっても高い訓練効果が認められたのに対し,
音韻同定に役立つ意味情報をもつ音声刺激による訓練では,
音響情報への注意が減じられ,訓練効果が低くなることが明らかになった.
また,訓練前後の音韻聴取課題と文章穴埋め課題における正答率向上幅の相関を分析したところ,
聴取課題の成績向上幅の大きい学習者ほど文章穴埋め課題正答率の向上幅が小さく,
穴埋め課題の成績向上幅の大きい学習者ほど音韻聴取課題の正答率の向上幅が小さいことがわかった.
この結果より,音韻聴取能力の向上と意味処理能力の向上の間にトレードオフの関係があることが示唆された.
大阪市立大学文化交流センター大セミナー室 大阪駅前第2ビル6階
- 秋山千鶴
「ワーキングメモリを意識したリーディング活動の可能性」
- 高校における外国語教育は、英語が主流であり、その指導法は従来の訳読式から実用志向へ目が向きつつあるが、
依然として学習者間における理解の個人差が問題点である。
その問題点を解決する可能性の一つとして本発表ではワーキングメモリに注目した。
ワーキングメモリを扱ったOsaka & Osaka(1992)の先行研究に対して、
使用されたリーディングスパンテストが純粋にワーキングメモリの容量を測定できているかという点、
また、被験者の質についての2点を疑問として取り上げ、
リーディングスパンテストの精緻化、ワーキングメモリを意識した指導法の実践的モデルの構築が課題と考えた。
自身の経験による現場の視点からは、学習者のレベルに合った教材、処理した情報を使用した課題、
学習者の情報処理の時間の3点を考慮することが必要であると考えた。
ワーキングメモリの消費容量を考慮し、学習者への負担を減らすことを目的とした、
教科書を簡略化した課題を用いた試みでは、簡略化した課題を行った実験群の方が教科書内の課題を行った統制群よりも情報の定着が促進された。
今後はさらに追調査を続け、実際に教室内でワーキングメモリを意識した活動を実践することが必要である。
- 森庸子
"Phonetic realization of major syntactic boundaries in English discourse by Japanese students"
- An attempt was made to explore the differences in phonetic realization of major syntactic boundaries in English discourse produced by English vs. Japanese speakers.
Eight native speakers of General American (NS) and 30 Japanese university students (JS) read a passage that contained two target words "raining" and "home"
in the final position of several clauses and sentences. Measurements were done for segmental duration, max., min., and mean F0, of the two target words.
The results showed much wider pitch range and a greater degree of final lengthening in NS than in JS.
It was also found that NS varied the pitch patterns and the degree of final lengthening depending on position of the final words in the discourse, whereas JS did not show a similar variation.
These findings suggest the differences in phonetic cues to signal syntactic boundaries between English and Japanese.
大阪市立大学文化交流センター小セミナー室 大阪駅前第2ビル6階
- 石川圭一
"Knowledge of English stress patterns by Japanese students"
- The present study examined how Japanese learners of English deal with noun-verb stress differences in English sentences where rhythmic contexts also vary. Japanese college students were requested to put a stress mark to indicate primary stress on two-syllable pseudowords in isolation and those in sentence frames. They were more likely to stress the first syllable of the pseudoword when the word acted as a noun than when it served as a verb. In addition, they were sensitive to the rhythmic context of the word when it acted as a noun. An additional experiment revealed that Japanese students tend to choose the weak-strong stress pattern for the psrudoverbs appended with inflections such as -ed and -ing. The results show that Japanese college students of English use their knowledge of the noun-verb stress difference to place stress on new words and that they developed some degree of sensitivity to English word rhythm.
- 橋本智也
「英語獲得児の初期の名詞および動詞は自発的産出か」
- 本発表は、子どもによる親の発話の「繰り返し」という観点から、
先行研究で報告されている名詞の優位性について再検討を行った。
子どもの言語獲得初期の語彙において、構造的に名詞が強調される言語(例えば英語)では名詞が先に獲得される、
つまり優位であるとされる(Gentner, 1982; Au, Dapretto, & Song, 1994; Gopnik & Choi, 1995) 。
先行研究が優位であることの判断基準にしているのは名詞の使用割合であり、
その使用割合は親による日誌やチェックリストから算出されている。
ところが、もし子どもが親の直前の発話に含まれる名詞を繰り返し、
さらにその頻度が高いのであれば、子どもが自発的に名詞を産出しているとは必ずしも言えないことになり、
名詞が先に獲得されている根拠が弱くなる。
ところが先行研究が用いている方法では、その可能性は排除できていない。
そこで本発表では、子どもの発話を直接分析することによって、
名詞の優位性が繰り返しによって生じているという可能性を検証した。
データにはCHILDESの英語のコーパスに含まれる、5児とその母親の発話資料を使用した。
また、それぞれの子どもの11ヶ月と15ヶ月のデータを使用し、月齢による変化が見られるかも検証した。
分析の結果、親は発話全体では名詞と動詞の使用割合に大きな差は見られないものの、
どちらの月齢の時点においても、動詞の使用割合が50%以上であった。
また親は文末では動詞よりも名詞を多く使用していた。
それに対し、子どもは、11ヶ月では名詞の方が多かったのが3名、動詞の方が多かったのが3名と同数であったが、
15ヶ月では6名全てで名詞の方が多かった。
そして名詞の使用に関して、11ヶ月・15ヶ月ともに6児全てで、
親の直前の発話を繰り返しではない場合が最も多かった。
本発表の結果から、言語獲得初期において、
子どもが名詞を使用する場合は直前の親の発話に含まれる名詞を繰り返しているのではないことが明らかになった。
このことは、子どもがある程度自発的に名詞を産出していることを示唆するものであり、
構造的に名詞が強調される言語における名詞の優位性を支持する。
今後は、日本語など動詞が強調される言語を対象に検証を行うことが必要である。
大阪市立大学文化交流センター小セミナー室 大阪駅前第2ビル6階
- 片岡晴美
「自作英語学習教材を用いた記憶定着度に関する研究:ショート・フィルム『ことわざ編』」
- インターネット上の「情報」の約90%が英語で流通している現状を受け、マルチメディア形式の自作英語学習教材を用い、英語と日本語のことわざの記憶定着率を調査した。被験者は高校3年生102名で、実験群の2グループには(1)音声版(画像+文字+音声)(2)文字版(文字+音声)の自作英語学習教材を、統制群の1グループには(3)プリント冊子を使用し、記憶定着率を3回調査した。(1)のグループの記憶定着率が高かったが、元々英語の能力が(2)(3)のグループと比較すると高かったからとも考えられ、今後結果をもっと細かく分析する必要がある。結論としては、自律的な学習を促進するためにも英語学習者が自主学習を実施することが望まれ、また従来型の学習方法とマルチメディアを併用することでモチベーションを上げる効果が期待される。
- 菅井康祐・山根繁・神崎和男・横山宏
「日本人EFL学習者のリスニングプロセス:大脳レベルでのポーズへの反応」
- 菅井・神崎・山根(2005)の調査に引き続き、ポーズの長さと日本人英語学習者のリスニング力との関係について調査を行った。その結果、ポーズの長さはすべての文の処理に有効に働くわけでは無いことが分かった。
これは、今回の課題分のポーズの前の部分がすべて5〜7音節であり、般的に聞き手の全体的な処理機構が働くとされる単位(7±2)に収まる長さのものであっため、PSU間にポーズを置くことで各ユニットが音調群としてより明確になり、センスユニットとして一気に知覚することができたと考えられる。
本実験は、200msecという比較的短いポーズでも、中間の500msec、また800msecという比較的長いポーズでも、多くの文においてはリスニングに及ぼす効果に相違は無いことを示唆している。言い換えれば、短文レベルでは、ポーズが有効に働く文とそうではない文があるということが明らかになった。
このことは、リスニングとポーズの関係が音節数の観点からだけでは説明が付かないという可能性を示している。ただし、今回の調査においては被験者のレベルに大きな差はなく、課題文も短文であったために、リスニングとポーズ長の関係をつかむには更なる調査が必要とされる。
関西学院大学ハブスクウェア会議室 大阪梅田茶屋町アプローズタワー14階
- 門田修平
「第二言語におけるガーデンパス文の処理と眼球運動」
- 本研究は、第二言語読解の認知メカニズムの解明を目指して、日本人英語学習者を対象に、アイカメラ(Eye-Mark Recorder EMR-8、ナック社製)を利用した眼球運動測定による文理解実験について報告するものであった。
第二言語読解の認知メカニズムを解明には、静的な言語知識の解明だけなく、言語知識の運用プロセスの解明が大きな鍵を握っており、文レベルの動的な処理のプロセスを探求することはきわめて重要である(第一言語における研究は、例えば、Trueswell, Tanenhaus & Garnsey(1994)などによる眼球運動研究の成果を参照。日本人英語学習者を対象としたものは数少ないが、里井・籔内・横川(2002)などによるself-pacedな読みを課した研究の成果を参照)。
本研究では、文理解のプロセスで一時的曖昧性が生じ、再度分析が必要となる英語ガーデンパス文(GP文:garden-path sentences)を読解中の眼球運動を測定した。日本人英語学習者における、[1]ガーデンパス文の心理的実在性、[2]統語処理および語彙の意味的・語用論的情報との相互作用、[3]ガーデンパス化回避の要因などについて、眼球の停留回数、一回あたりの停留時間の平均値、総停留時間、逆戻り回数などのデータを分析した結果をもとに報告・考察するものであった。主な結果は次の通り。(1)「ガーデンパス現象」(文の統語表象を再度解析し直す現象)が、確かに第二言語としての英語の読みにも観察される。(2)しかしながら、主語名詞句の意味的特性(±animateness)(e.g. The money taken by the students was finally found.)や主語名詞句の語用論的特性(mouseはcatに追いかけられるものといった知識)(e.g. The mouse chased by the cat climbed the tree.)により、 ガーデンパス現象に陥る確率が大いに減少する。
以上の結果は、第二言語として英語を学ぶ日本人英語学習者の場合、文処理過程において、メンタルレキシコン内の語の意味や語用論的情報がオンライン的に同時に処理されている可能性を示唆するものである。
(註)本発表は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究C)『日本人英語学習者によるガーデンパス文の処理メカニズム:眼球運動データに基づく検討』(課題番号16520366)(研究代表者:門田修平、研究分担者:長谷尚哉、横川博一、吉田晴世)の成果の一部である
- 井狩幸男
「神経心理言語学からみた言語獲得を支える原理と処理方略」
- 今回の発表では、言語獲得を支えるメカニズムについて検討した。最初に、脳の「秩序」の基に、生得的に組み込まれている「同期」「予想」「調整」の三つの原理が、言語発達の質的変化の中で発達に応じて機能するのではないかと考え、その妥当性を検討した。
そして次に、実際の言語処理には「包括的処理」「分析的処理」「関係づけ」の三つの処理方略が関係し、中でも「包括的処理」と「分析的処理」が瞬時に実行されることにより実現されるパターン知覚が、言語獲得に必要不可欠であることを考察した。
今後さらに、この方面の研究が進み、言語獲得の原理や処理方略のメカニズムが解明されることが期待される。
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