表現文化コース (第1部のみ)
1 本コースの研究内容、特色
[基本的な特色・研究内容] 「表現文化コース」は、平成10年に発足したばかりの新しいコースです。本コースは、これから述べるような立場において「文化」を研究対象とします。ここでの研究の基本的特色・立場は、最近数十年間の国際的な人文研究の枠組みの再編において、「文化」を対象とする新たなアプローチとして展開されている研究の流れに沿うものといえるでしょう。そのことは、本コースのとりわけ重要な特色である次の諸点にも明確に現れています。
 第一に、対象が特定の言語圏・文化圏だけに限られるのではなく、それらの間での比較を行います(たとえば、ドイツ、アメリカ、イギリス、日本の現代演劇の比較研究)。第二に、同じ言語圏・文化圏の中でも、たとえば文学だけを対象とするのではなく、その社会的・文化的な全体像を視野に入れつつ、さまざまな領域がどのように絡み合いながら展開しているかを研究します(たとえば、世紀末ウィーンにおける音楽、美術、文学、建築、社会的・政治的状況などの連関の研究)。第三に、これらのさまざまな文化現象を、それがとりわけ現代のわれわれの社会的・文化的状況とどのように関わってくるのかという視点からとらえようとします。
 こういった現代的な立場がとくに顕著になる場合には、人間の高尚な精神的営みによって創造されたものと考えられているような「高級文化」だけではなく、たとえば映画・モード・サブカルチャー・メディアといった、現代生活のいたるところで普通にわれわれがふれているような現代の文化も対象となります。
 また、こうした研究を行う際には、「文化」とは何か、個々の文化現象をどのような方法論のもとに捉えるか、といった考察が欠かせません。そういった理論的問題も重要な研究内容です。さらに、もう一つ特色を付け加えるとすれば、これらのことを扱っていくうえで、授業その他においてコンピュータや映像・音響機器を積極的に取り入れていくことをあげることができるでしょう。
 これまであげてきたようなさまざまな対象を、われわれは文化的な「表現」としてとらえ、研究していくのですが、ただ注意してほしいのは、本コースでは、いかに表現するかという実技的なこと(たとえば楽器の演奏・絵の描き方)を学ぶのではなく、表現として現れたもの(音楽・絵画・文学・映画など)が文化・社会のうちにどのように位置づけられ、どのような意味をもつかを理論的に考察することを目的としています。
 このように、本コースではきわめて多様な対象に取り組むことが可能ですが、そのことは、複数の文化圏・領域を網羅的に把握しなければならないということを意味するわけではありません。基本的には、各人に関心のあるテーマ・文化圏を中心に勉強の方向を組み立ててほしいと思います。ただし、できる限りさまざまな対象・テーマの授業を受けて視野を広げることによって、自分自身の関心をそのうちに位置づけるようにしてください。
 本コースは欧米文化圏(イギリス・アメリカ・アイルランド・フランス・ロシア・ドイツ・オーストリア・イタリア等)を中心としますが、それに日本との比較が加わります。スタッフがカバーしていない対象については、非常勤講師による授業でさらに多彩な内容に取り組めるよう配慮していますが、文化圏やテーマに関して本コースで研究が続けられるかどうか不安な人は、遠慮なくスタッフに相談してください。
[授業]本コースは言語文化学科の中の1コースですから、まず1,2回生の間に、基本的な幅広い視点を得るために、この学科の必修科目である「言語文化基礎論I、II」と「言語文化概論I、II」を履修することになります。
 本コース独自の授業は、選択必修科目とされている科目群で提供され、2回生から4回生(実際には、ほぼ3回生まで)のあいだに履修します。その中で「表現文化学概論I、II」は、表現文化コースの授業すべてに関わる基本的でかつ重要な理論的問題を扱います。また、以下の三つの柱を見通す視野を与えるものです。本コースの大きな三本の柱となっているのが、「文化理論」、「表象文化論」、「比較表現論」で、それぞれ講義(「…論」)と演習(「…演習」)に分かれます。
 「文化理論」では、多様な文化現象を社会的・文化的・思想的連関から具体的に考察していくとともに、とりわけそこに見いだされる理論的諸問題(たとえば、記号論、言語論、詩論、芸術論、文化理論、精神分析理論、メディア論)を取り上げます。  「表象文化論」では、文学・音楽・美術・演劇・映画などにおいて、(とりわけ西欧的な)知・感受性・イメージがどのような表現/表象/再現前representationとなって定着し作用を及ぼしているか、ある特定の時代・文化における社会的・知的状況によってどのように形成され、変容を遂げていくか、を扱います。
 「比較表現論」では、たとえば文学という一つの表現形式の文化間の比較(たとえばドイツ・イギリス・日本の文学作品の比較や影響関係、あるいは美術と音楽といった表現形式間の連関と比較をつうじて、ある特定の主題圏、芸術運動をより幅広い視野から捉え、また比較により浮かび上がってくる差異によって、それぞれの文化圏・芸術領域の特性を明らかにしていきます。
 また、「文化交流論」は、「比較表現論」と重なるところもありますが、異なった文化圏における芸術の交流という視点から、立体的に文化の影響関係の諸相を捉えていきます。
 これら本コースで提供している独自の科目に加えて、他コースにおいて提供されている選択必修科目も、自分自身の関心に応じて、本コースで履修する上での選択必修科目のうちに取り入れることができます。また、自由選択科目のうちに含まれる「表現文化特論I、 II」では、音楽や映像論といった特定のテーマに関する講義を行います。
 4回生では、「卒業論文」を書くことにもっとも集中することになります。これまで述べたように、本コースではきわめてひろい範囲をとりあげることになりますが、その中で特定のテーマ設定を行い、それに関する資料に取り組んだうえで十分な考察を行うという点では、他コースの専門性と何ら変わるところはありません。
2 スタッフ
(文化理論)
荒木 映子 教 授
(あらき・えいこ)
文学・文化批評理論、芸術・文化・制度の記号論、比較文化史。特に、世紀末から現代にかけての英語圏を中心としたヨーロッパの文化研究。
(表象文化論)
三上 雅子 助教授
(みかみ・まさこ)
日本と英米・ヨーロッパ(特にドイツ語圏)表現文化比較、現代演劇論。
野末 紀之 助教授
(のずえ・のりゆき)
芸術・メディアを通じての西欧近代の知・感受性の変容、セクシュアリティと芸術表現、19世紀末文化論。
(比較表現論)
高島 葉子 助教授
(たかしま・ようこ)
比較文学・比較文化、民間説話・民間伝承(特に妖精伝承)の比較文化的研究。、
(文化交流論)
浅岡 宣彦 教 授
(あさおか・のぶひこ)
異文化の交流および、文学を素材とした芸術ジャンル相互の交流。ロシア文化論。19世紀ロシア文学。
3 コース決定に当たっての心構え
 芸術・文化現象に対して強い関心をもつとともに、理論的な問題意識が要求されます。つまり、さまざまな作品(文学・音楽・美術・映画…)やサブカルチャー的な現象にたくさんふれ、関心をもつことは、最初に必要なことですが、単にそれがおもしろいと享受している段階にとどまっているのでは研究になりません。
 また、対象とする文化圏・領域が広いぶんだけ、旺盛な知識欲・関心をもった人が期待されますが、それとともに外国語の能力はきわめて重要となります。英語はもちろんのこと、少なくとももう一つのヨーロッパ系の言語に習熟することを念頭においた上で、1回生のうちに第2外国語の基礎を十分に身につけてください。2回生以降も、専門科目で提供されている各国語演習を積極的に受講するようにしてください。
 その他、特に1回生のうちに履修しておくことが望ましい科目はありませんが、種々の文化現象に対する視野を広げ、自分自身の関心を深めるよう意識してほしいと思います。
4 大学院
平成13年度から、言語文化専攻に「表現文化学」専門分野(専修)が発足しました。大学院前期博士課程(修士課程)および後期博士課程が設置され、卒業後も研究を続けることができるようになりました。特定の言語圏・文化圏にこだわらず、また、芸術作品などの「高級文化」だけではなく、サブカルチャーまで含めた幅広い文化現象を対象とする、柔軟な思考力を持った意欲的な研究者の育成を目指しています。近い将来、映画やコミックを扱った博士論文も執筆されることでしょう。
5 卒業後の進出分野
平成13年度に初めて卒業生がでました。さまざまな芸術分野・文化表現の分析に取り組んだことを生かして、多種多様な分野へ進出しています。就職先は一般企業が多いですが、職種は、広告、金融、製造、製薬、印刷、コンピューター・プログラマーなど幅広い分野におよんでいます。地方公務員・国家公務員になる人も毎年出ています。また、専門学校や大学院に進学する人も少なくありません。
6 メッセージなど
 本コースの特色は、確かに「何でもできる」というところにあると思います。しかし、もちろん、それは「適当に好きなことをやっていればよい」ということでは、決してありません。「文化」とその「表現」に関わる問題に、本当に関心をもって取り組む意欲のある学生を期待します。そのような人にとっては、もっともふさわしい研究の場となるでしょう。1回生の間に何度かガイダンスがありますが、それ以外にも進路のことなどで相談があれば、いつでも表現文化学共同研究室(法学部棟5階514室)までおいでください。

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