コラム

ドイツ語教授法ゼミナールに参加して

木戸紗織

 第18回ドイツ語教授法ゼミナールが2013年3月17日から3泊4日の日程で開催された。今回は “Phonetik konkret” と題し、音声学の基礎や分析を通して自ら学習教材を作成するという内容で、参加者は例年より多い44名、うち学生は私を含めて4名であった。私はこれまで音声学に関心があったとはいえないが、ゼミ終了後の4月から非常勤講師の職に就くため、その第一歩として参加した。
 今回のゼミでは、講演とワークショップの組み合わせが3回設定されていた。各回ともまず招待講師であるハレ・ヴィッテンベルク大学のProf. Dr. Ursula Hirschfeldによる講演があり、それを受けてワークショップにおける課題が与えられる。参加者は8名程度のグループに分かれ、2~3時間のうちにアイデアを出し合いながら成果をまとめて最後に全員の前で発表する。私にとって最も興味深かったのは、教材や教授法を教員が自ら開発するというワークショップである。私が参加したグループでは、Sprossvokal(萌芽母音、挿入母音)が取り上げられた。話 し合いの中で子音の発音を意識させることの重要性が確認され、そのための練習問題がいくつも提案されたが、その練習をいつ行うかについては曖昧なまま終 わってしまった。学生の立場で考えるなら、早い段階で矯正される方が効果的だとも言えるし、間違っているという自覚がなければどれほど練習しても成果は得 られないとも言える。教材の内容ばかりが議論されたが、学習のどの段階でこういった練習をさせるのが最も効果的なのかというところまで踏み込めればよかっ たと感じている。 教授法ゼミは泊まり込みなので、講演とワー クショップ以外にも、参加者同士の交流が深まる場がいくつもある。たとえば、参加者は休憩時に使うカップを持参するよう言われており、このマイカップ自慢 が休憩のたびに自己紹介に一役買った。また、ウォーミングアップとして毎朝ミニゲームが用意されていたが、最初こそよそよそしかったものの、親しくなるに つれて皆大胆になり、最後には時間を延長するほど熱中していた。夜には有志によって懇親会が開かれ、教員養成講座に関する情報交換が行われたり、結婚につ いて真剣な議論が展開されたりと、昼間とは別の貴重な交流の場となった。個人的には、最年少ということでAbschlusspartyの司会という大役を仰せつかり、幸か不幸か、初参加ながら多くの参加者に名前を覚えていただくことができた。
 今回私は教壇に立つ準備として教授法ゼミに 参加したが、参加者は年齢、教歴ともに様々で、誰が参加しても自分のニーズに応じた成果が得られると思う。とくに、経験豊富な先生方が試行錯誤しながら ワークショップの課題に取り組む姿はとても新鮮だった。私は、ゼミが終わればその2週間後にはもう授業を始めなければならないことにただただ不安とプレッシャーを感じるばかりであったが、先生方の姿を見て、こういった場を利用しながら経験を積んで自分らしい教え方を築いていけばいいのだと得心した、そんな4日間だった。
(きどさおり・大阪市立大学非常勤講師)「セミナリウム通信」32 より本人の許可を得て転載

2014年5月8日