田中秀和
(第 1 部 4 回生)

リヨン日記



Le 05/09/2002
 さて、9月からは語学学校も始まって、しかも10月からの住居も探さなければならないので、大変である。この時期はいろんな学校が始まるので、ほんとうに学生の数が多くて、リヨンの町は一気に人が増えたように見える。実際かなり増えているのだ。8月のあいだバカンスに出て行っていた人たちも帰ってきたので、メトロ(地下鉄)やバスも普段は絶対にイスに座れていたのに、もう今は駄目である。フランスでは、日本と違って公共交通機関が統一されていて、例えばリヨンではTCL(リヨン市交通)というのが、バスもメトロもトラムウェイも動かしていて、一つの切符ですべての乗り物に乗ることができる。その切符はとてもユニークで、リヨンの場合、1時間以内であればどんなに乗り換えしてもいい。だから、メトロ、バス、トラムと、1時間以内であれば1つの切符で乗り放題ということ。それにだいたいのところには1時間以内でいける。乗換えでいちいち切符を買わなくてもいい。ここはとても良いところだと思う。
 パリにはそんな制度はない。それにメトロも古いままだから汚いし、暗いし狭い。パリの交通はRATP(パリ市交通)というのがリヨンと同じように統一している。
 フランスのシステムは、あらゆるところで日本と違っている。パリはあまり変化がないように思うけど、リヨンは結構新しいものを取り入れようという傾向にあるようだ。さっきのリヨン市交通にしても、今は変化のときである。パリの運賃も上がったけど、リヨンの運賃も少しずつあがっている。パリ交通にはないもの、それは、TECELYというカードである。これは、日本で言うと定期券。日本では自動改札があって、定期を入れれば改札を通れるなんていうのは当たり前だが、こっちではそういうシステムがない。つまりリヨンにもやっと定期券ができたのだ。でも日本みたいに薄っぺらくて財布の中にも入るようなカードではなくて、太いキャッシュカードのようなもの。磁気が付いていて、改札の機械に近づけるとピッと音がする。これで駅に入る資格を得たことになる。前にも書いたけど、日本のように自動改札に扉はなく、出入りは自由。でも、たまに検査官がいっぱいいて、全員の切符をチェックするときがあるのだ。そのときにこのカードや切符を機械に通してないと、罰金を払わなければならない。このシステムはほんとにめんどくさい。日本みたいに完全に入れないようになってたら、もう切符を買うしかないけど、こうも簡単にタダで乗れてしまうようではなかなかキチッと払う気になれない。もちろん、フランスの人でも払っている人とそうじゃない人もいる。だから検査しないといけないんであって・・・。その人件費も考えたら、ぜったいにTCLは損していると思う。罰金で稼いでいるんだろうか。ほんとにこういうところは納得できない。納得できないというのも、他にも理由があって、この定期券を買わなければいけないんだけど、すべての駅で買えるというわけではなく、しかも一人ひとり身分証明書類の提出をしなければならないから、今の時期、これを買うまで3時間も待たなければならないのだ。当然、そんな無駄な時間はないから、未だにそのカードは手に入れてない。まあ5日も経てば空いてくるだろうと待っていたのだが、今日も長蛇の列が出来ていた。一体、フランスという国はどこまで仕事が遅いんだろう・・・。このままでは、全員がこのカードを手に入れるまでに、9月という月が終わってしまう。日本でも同じだけど、運賃は定期のほうが断然安い。だから、俺も持ちたいのだけど、3時間待ち。ディズニーランドだったらまだ納得がいくんだけど・・・。定期で3時間は待ちたくない。
 このカードは、何年か前から構想をねってたようで、カードのための機械だけは最初からあった。でもそれまでの定期は磁気がついておらず、定期をもっているひとは、機械をピッとならさなくてもどうどうと駅に入ることができていた。でも、当然のことながら、あまりにもタダ乗りが多いなかで、定期をもっていない人でもどうどうと定期を持っているフリをして入ることが出来ていた。俺はそこをなんとかしたかったんだろうとおもう。だから、こんなカードを作って、定期を持っている人でも機械をちゃんと通さないとだめなようにしたんだろう。そうすると、今までただ乗りしてた人たちも良心の呵責が起こって、定期を買うようになるかもしれない。つまり、近いうちに、入り口の機械の前に必ず人がいるようになって、機械を通さない人を呼び止めて、罰金を要求するようになるんだろう。そうすると、今の日本に近い状態になる。日本の駅には必ず駅員さんが見張ってるよね。しかも自動改札機はすごい勢いで止めてくる。ぜったいに通してくれないもんな。それをジャンプして越えようもんなら、日本ではぜったいに見つかるし、たとえ越えてもまた目的地の駅で降りるときにも越えないといけない。そんな漫画みたいに運動神経のいいやつはいないし、毎朝改札をジャンプするのも疲れるだろう。だから、そんなやつは日本には一人もいなくて、電車に乗る人はなんのためらいも無くしっかりとお金を払う。そうすれば、電車会社にとってもしっかりと運賃をもれなく徴収できるわけだから、システムがうまく機能しているということになるわけだろう。
 それに対して、フランスのシステムはどうしてタダ乗りできる可能性を残すんだろう。改札の入り口と出口に絶対に人を置くべきだと思うんだけどな。リヨンのシステムは今変わろうとしている時期なのでしかたないのかもしれないけど、このカードを作ったことで、結局は日本のように近い将来なるってことだね。それにしてもカードの普及にもっと務めて欲しいものである。日本よりも人口がかなり少ないにも関わらず、連日定期を買うために列ができるとはどういうことなのだろう。そのくせ、チェックするひとたちはしっかりと働いている。だから、切符をいっぱい買っておかないといけない。そうこうしているうちに定期分の切符を買ってしまうだろう。いったい何の意味があるのだろう・・・。とにかく肝心なところの仕事が遅すぎる。みんな考えることが違っていてしかも頑固なので、組織自体がバラバラなのだ。だから、あっちの担当はあっちの考えで働いていて、こっちはこっち。それじゃあお客が納得できるサービスなんか出来るわけがない。別にサービスをしようなんて思ってないのかも知れないけどね。交通機関は人々にとって絶対に必要なものだし、無かったら困るから文句もあまり言えない。そういうことをちゃんと知ってるんだね。そのうえストライキなんかもやったりするわけだろう。お客のことなんてちっとも考えてない。お客がストすることなんてあり得ないわけだから。あの鉄道は感じが悪いから乗らないでおこう、とか言うわけにもいかない。お客は移動したいんだから。そのために交通機関を提供してもらってるんだ、と考えないといけないのかもしれないね。だから、文句を言ってはいけない・・・ということになるね。ああ、疲れた。

Le 30/09/2002
 今日は、引越しの日である。ついに、いままで住んでいた(といっても1ヶ月だけ)狭くて使えない大学寮を抜け出し、リヨンの伝統的な地域、La croix rousse(ラ・クロワ・ルース、赤い十字架)にあるアパートへと移るのである。幸い、友達も手伝ってくれるというので、うまく楽しく引越しできそうである。今は、これをその新しい何も無い部屋で書いている。でも、ここには普通のアパートにもなかなか無いバスタブがあるし、キッチンも冷蔵庫もちゃんとあって、すぐにでも生活が始められるようになっている。これで、勉強にも力が入りそうだし、しっかりと自分の時間が持ててサッカーも上達しそうだ。
 それはそうと、もうチームですでに2試合に出たので、その報告をしておかないといけない。
 一試合目は、9月22日、ホームグランドでの一戦。相手はリヨンのなかでも有名なチーム。だけあって、やっぱりなかなか強かった。でも、日本のそこそこ強い大学サークルくらいのレベル。この試合は、Rhone-Alpsリーグ(大阪で言えば府リーグ)第1回戦ということだった。いきなり自分たちよりも明らかに強いといわれているチームとやることになったわけだ。試合前のミーティングで、スターティングメンバーが決まる。まさか選ばれるとは思ってなかったけど、いきなりトップ下のポジションを任された。今までやったことの無いトップ下。Comme Zidane!!(ジダンのように!)とかみんなが言っていたが、そんなにうまく行くはずがない。案の定、プレッシャーがきついせいもあって、ボールが全然回ってこない。みんなも全然周りが見れてないようだった。そんなこんなで、前半がシュート無しで終わり、後半からは一旦はずされてしまった。ここでちょっとでも活躍しておかなければならなかった。。もうチャンスは当分回ってこないかもしれないのだ・・。チームは、前半に入れられた得点で、1−0と負けていた。そして、後半にも追加点を許す。この時点で、2−0。もう出番はないと思っていたときに、いきなり呼ばれて、5分だけチャンスをもらった。その5分の間思いっきり動き回って、なんとか自分でボールを奪ってドリブル。ファールで思いっきりこかされたけど、味方がボールを拾ったので笛は吹かれず。そのままチームは1点を返すことができた。で、試合終了。すねがかなり痛かった。こんなことでは全然試合で通用しないなと痛感した。これが、フランスに来てはじめての11人制の公式試合だった。
 2試合目は、29日の日曜日。この日は、Rhone-Alpsリーグ第二節。今度はアウェーなので、車で移動。かなり田舎のほうまでいった。そして、試合会場は芝生。俺はフランスの固い土の競技場よりも芝生の方がやりやすい。スパイクの関係もあるかもしれないけど。今はまだ日本からもってきたヤツを使ってるので、なかなか土のグランドにフィットしない。とにかくこの日は絶対に勝たないといけないといわれていた。でも、前の試合で活躍できなかったために、前半は見学。チームは先制を許し、前半終了時で1−0と負けていた。そして、後半が始まる前にアップを命じられ、後半から出場。今度は監督も分かってくれて、ボランチ(守備的ミッドフィルダー)としてフィールドに立った。今回の試合では、スペースを埋めるということに気をつけた。そして、一発で取りに行かない。これはとても大事なことだ。なぜか知らないけど、フランスに来てから、これをぜんぜん忘れていた。強いチームとあまりやらなかったからというのもある。チームメイトにはそこまで個人的にうまい人はいないし、ディフェンスのときもみんな一発で行って抜かれている。これはちょっと考え直さないといけない。やっぱり、ボランチの位置でしっかり相手の攻撃を遅らせることができる人がいないといけない。そうしないと、全部の攻撃を100パーセント受けてしまうことになる。ボールを奪われても、そこからすぐにディフェンスを開始すれば、もしかしたら自分の陣地まで入り込まれないうちにボールを奪い返せるかも知れない。でもみんなそれをしないから、次から次へと抜かれていって、シュートを撃たれてしまう。まずは、ボールをもった相手の前に立ちはだかって、前に進ませない。そこから相手のミスがでて、ボールを奪うことが出来る。ところが、あまり弱い相手、つまりボール扱いが上手くない相手とばかり1対1をやっていると、相手が勝手にミスしてくれるので、簡単にボールを取れるかのように勘違いしてしまうのだ。それで、後で試合になって、ドリブルされたときに、軽い気持ちで取りに行くと、簡単に裏を取られてかわされる。そもそも、1対1ではディフェンスが完全に不利なのだ。抜けて当たり前。ディフェンスでたった一人で相手を止められる場合としては、よほど鋭い読みで相手に体を入れたり、タックルしたりするか、ファールしかない。ディフェンスはみんなでするものである。一人の力でボールをとるのは非常に難しい。相手が普通にサッカーできる相手の場合はね。
 俺は、この試合も納得できる出来ではなかったけど、随所でボールもカットすることが出来たし、サイドと絡んでワンツーしたりもした。それ以外はずーっとバランスに気を配っていただけだった。チームは1点を返すことができ、試合は1−1で終わった。この試合で思ったのは、ディフェンスの時に激しくとりに行くときとじっくり取りにいくときのタイミングをもう一度取り戻さないといけないなということだった。

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