田中秀和
(第 1 部 4 回生)

リヨン日記



Le 14/06/2002
 さて、今日は、ついに日本チーム(L'équipe de Japon)が決勝トーナメント進出を果たした。一緒に見ていたチュニジアの人はそうそうと僕にさよならを言ってテレビの部屋を出て行ってしまった。チュニジアにもチャンスはあったのだ。そのチュニジアに対して、日本はまるで絵に書いたような試合をした。ワールドカップですでに2試合を消化して、しかもいい成績を残している日本には自信がみなぎっており、誰もが当然この試合にも勝つという気持ちでいただろう。それが緒戦にはなかった冷静さを生み出していた。とくに、ディフェンスラインとボランチの連携が良かったように思う。稲本をはじめ、ほんとうに効率の良いサッカーをしている。見ていて気持ちいいのはただ祖国のチームだということだけからではない。とにかくパスを良くまわし、サクサクと相手のディフェンスの集中を散らしていく。こういうチームが今回のワールドカップで生き残っている。スペイン、メキシコ、ブラジル。ともに中盤のパスの上手さは絶品だ。それに反して、イタリア、ポルトガル、フランス、アルゼンチン、ロシアなどは、個々の力に頼っているところが多く見られ、結果としてドリブルの時間がすこし長くなっているのだ。イタリアなんかは、あまりパスのセンスをもったDFが少ないし、フランスはジダン、アルゼンチンはオルテガに頼りすぎだ。やっぱり、サッカーがフィジカル化しているなかで、ドリブルはいざというときの手段として考えるのが普通だろう。メキシコのサッカーなんかは、南米に近いのに、本当に正確な技術を持った選手たちが頭を使ってサッカーをやっているという感じ。日本のサッカーにも似ている。
 と、ワールドカップの話はこれくらいにして、今日はもうはやく寝なければならない。ストレッチもしないと。明日も試合があるのだ。最近調子があんまりよくないので、明日は絶対に惜しみなく動いてもう一度活躍したい。そして、髪も切りたい。今は中村俊輔くらいの長さ。これは暑すぎる。チームメイトにも切れ切れと言われる。なんか、こっちでは、活躍すればすごくみんないじってくれるけど、やる気ない様に見えたらもう無視のような気がする。言葉が通じないのも大きな原因だが、常に思いっきりやるのが美学のようだ。本当に、激しいボールのとりあいが展開される。日本でぬくぬくとやっていた俺にはなかなか厳しい。ボディコンタクトにどうやら恐怖を覚えているようだ。上手く取ろう上手く取ろうとしすぎている感がある。でも、どんなにうまい人でもやっぱり試合になれば結構ハードに当たってるもんなのだ。
 明日はちょっとマジで頑張らないと、へこんでいく事になりそう。ご飯もいっぱい食べたし。なんか一人合宿ぐらいに食べた。合宿中って、体が充実するよね。これから合宿中みたいな生活を送ってやる! ほんで体で勝負できるようになるんだ。

Le 15/06/2002
 やった。今日も優勝。これで二回大会があって二回とも優勝を経験したことになる。でも、この前の大会の決勝から痛めていた太ももが今日ピークに達して、途中からは見学になってしまったけどね。肉離れになってしまうよりはいいかなと思って思い切って後はチームメイトに託した。やっぱりラムジとムレイとハサン(また名前覚えられへんかった。だって試合しかけーへんねんもん)の3枚はとても頼りになる。その中でもラムジはトップなんだけど、とにかくキープ力がある。そして驚くべき決定力。とってもキックが正確なのと、よくサッカーを知っている。身長は俺よりもだいぶ小さくて、小太りのまるっこいおっちゃんなのだが・・・。彼が点のほとんどををとって、そのあとにムレイ、ハサンとつづく。ちなみに俺は今回は1点だけ。左足で。見ていたみんなは俺が決めた瞬間、「イナモトぉー」と叫んでいた。今度はイナモトか・・・。髪の色を金色に近くしようかな・・それはもうちょっと上手くなってからかなー。
 なんか知らんけど、結構強いチームなのでよかった。といってもこの三枚が強力なのが大きい理由だと思うが。3枚ぷらす俺のボランチでバランスを取っているときが一番強い。俺がもっともっと確実になれば、結構9月からのリーグで結果を出せるのでは。
 今日はかなりフランスも暑かったので、日焼けをした。今からどんどんと黒くなっていくことだろう。ペンギンりーだーはもうすでにかなり黒いんだろうなと思いつつ。
 今日は結構フランス語もしゃべった。みんなも俺の言ったことで笑ってくれるときもでてきた。やっぱり出会う、しゃべる、分かり合う。これがフランスでの生活を有意義に過ごすための必須条件だ。もちろん、日本人、というかアジア人は俺一人。だから、みんな珍しがって話しかけてくれる。今は日本が話題だからね。本当にワールドカップの年に来てよかった、と今は思う。よくある質問が、どうしてわざわざこっちに来たんだ?である。ワールドカップがあるってのに。そう、サッカー好きとは思えない行為なのである。でも、こうして、いろんな国の人とサッカーをしながらワールドカップの話もできるなんて経験は日本にいてもなかなか難しいだろう。もちろん日本のスタジアム界隈のバーなんかに行けば、今は外国人がいっぱいいるだろうが。しゃべりに行ってみてはどうだろうか。こんなチャンスはめったにないと思う。日本は普段は外国人は少ないもんね。でもスタジアムを見る限り、今はかなり増えてるんじゃないかな。フランス語やスペイン語が話せなくても英語とかジェスチャーでなんとかなるもんだ。もっとも、少々の勇気と度胸はいるが。そういう人は少ないし、そういう人は必ずそういう場所に行ってるだろうから、先着がいっぱいいて、外国人の予約待ち状態になってるかもしれないね。いずれにせよ、日本で外国人と知り合う機会はあまりないということ。ただ、求めていけば必ず会える。
 今日印象的だったのが、小さな子供がTu t'appelles comment ?(名前なんていうの?)とまず最初にきき、「ヒデ」と応えると、今度は、Tu viens d'où?(どこから来たの?)とちょっと後で聞いてきた。「Japon」と応えると、なにやら2人いたうち、お兄ちゃんらしき子がガッツポーズをして見せている。どうやら、日本人か中国人か賭けていたようである。こっちにくると、日本人よりは中国人のほうが圧倒的に多いので、よく間違えられる。フランス人からすれば、アジア人なので、見分けがつかないのだろう。日本人側から見れば、ダサさで一目瞭然なんだけどなあ。
 明日はワールドカップをちゃんと見れるぞ。怪我もしてしまったので、これから一週間は軽く体を動かして、上半身を鍛えるつもり。そして、いっぱい食べる。いっぱい寝る。いっぱいべんきょうする(?)

Le 21/06/2002
今日は、ワールドカップ試合をずっと見ていた。イングランド・ブラジル。もちろん、ブラジルが勝つべく試合だったのだが、一番きががかりなのが、ロナウジーニョにだされたレッドカード。あれはさすがに納得いかなかった。彼が点を決めた後で、しかもブラジルが最終的には勝ったからよかったものの、あの判定こそ、熱戦に水を差すものであったことは間違いない。その後のブラジルは終始守備に徹した。そして、勝利をしっかりと信じ、危なげなく勝ったのだ。僕はイングランドびいきで観戦をスタートしたが、あの判定以来、ブラジルに勝ってもらいたいと思った。あのしょーもないミスジャッジをものともせずに勝利というかたちで次に進んで欲しかったのだ。しかし、ロナウジーニョは次の試合にも出場不可となるが・・・なんとしても彼にもう一度ワールドカップのフィールドに立たせてあげたいものだ。そのためにはブラジルは次の相手にも勝たなければならない。
 それにしても、この大会は一発レッドカードが多い。覚えているだろうか、今日ロナウジーニョに一発レッドを出した審判はフランスのアンリにも同じように一発レッドを出した審判なのだ。たぶん。アンリの場合は致し方ないといえばいえるが、今回の場合は明らかに故意ではない。足の裏でボールを処理しようとした結果、たまたま相手の足にも当たってしまったのである。
 これは、昔から言われていることなのであるが、審判にもサッカー理解が必要であるということ。試合をおもしろくすることも逆に面白くなくすることもできてしまうのが審判。本当に故意にファールをおかした選手を退場させるのはもちろんだが、あまりにもマニュアルどおりに退場を決定してしまっては、ロボットがサッカーをしているのと同じである。それぞれの選手に個性があり、それが相手チームの選手を巻き込んで共演して、見ていてもやっていても面白い試合になるのである。そして、たまに勝ちにこだわるがあまり、不正な、スポーツマンらしからぬ行為が生じるときがある。そこで、審判がやっと顔をだすのである。『それはいけないよ。』と。そして、みんなもその行為があったことを理解し、説明を受けて、次のプレーを続けることができるのだ。
 おそらく、今回の大会では、足の裏での接触に対して、かなり厳しく判定しようということになっているのだろう。しかし、今回の大会では、あまりにもその罠にはまってしまう選手が多いように思う。今まではそんなことを注意してサッカーをやっていなかったのだから。これからは、それが流行って、アマチュアでも足の裏レッドカードが常識になっていってしまうのでは、と心配している。身に覚えのないファールで退場するのは本当につらいことだろうから。
サッカーはボールを足の裏で処理することもある以上、この動作をなくしてしまうとはできないだろう。もし、なくしてしまうのだとしたら、足の裏を使ったボール扱いや、フェイントなどを得意とする選手はどうしたらいいのだろう。いつ足が相手にあたってしまって退場するか分からない状態なのである。そういう選手、特にクリエイティブな選手はよく足の裏を好んで使うものだ。なんともボールを取りにくい。そして、それは、見ていても大変きれいなものだ。
あの、ジダンも得意な技である。
 最近のフットサル人気(と言われて久しいが。)からも、足の裏を使う選手が増えている。とにかく、ボールを踏んでいるので、その間はなかなか相手に取られてしまうことが少ない。しかも、ボールを踏んでいるということは、自分がいるスペースでボールを保持しているということになる。一瞬ではあるが。普通のドリブルだと、自分のスペース+ボールが動くためのスペースが必要だ。しかし、それでは相手にとって取りやすくなるのは当然。自分の足の裏にボールをキープしたまま進んでいけるとしたらどうだろう。そんなことは一瞬しか出来ないのだが、その瞬間は半無敵状態となる。弱点は、踏む足を変える瞬間。したがって、練習量もまた要求される技である。普通のドリブルに加えて、足の裏でのドリブルも併用できるようになれば、さらにボール扱いの自由度はあがるだろう。僕も足の裏を使うのがとても好きだ。まだまだ練習が足りないけれども。

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