田中秀和
(第 1 部 4 回生)

リヨン日記



Le 07/05/2002
 今日は、レベル6の授業に行ってみた。そこでは、結構発言の機会が多く、なかなかよかった。明日もレベル6の授業に出てみようと思う。なんか、俺がレベル7の授業に出ていたのは、Théàtreのためだったような気がしてきた。やはり、しゃべれてなんぼだと思うので。
サッカーをしていても、フランス語で指示とかが出来たほうがいいにきまっている。日本では、ディフェンスがボールを取ったときによく、「クリアー!」というが、フランスでは、Dégager!である。解き放つという意味。ディフェンスラインで俺がドリブルして相手のフォワードを抜いていったら、すごい形相で、デガジェ!!!と言われた。最初は何か分からないふりをしていたけど、やっぱりよくない。コミュニケーションが大事である。ちょっとでもプレーについて話し合うことができれば、パスもどんどん回ってくる。ただし、ある程度の技術は意識的にみんなにわかるように見せないとだめ。「お、あいつできるな。」と思わせる。だから、チャンスだと思ったら、簡単にバックパスなんかしないで、自分のベストプレーが常に出来るように、前に行く気持ちをもっていることが大事だ。ドリブルが得意なら、一人抜けばそれだけゴールが近くなるわけだから。でも、エリアを考えないといけないということ。もし、判断ミスが多くなれば、周囲の信頼もそれに応じて無くなっていくことも頭に入れておかねばならない。冷静な面もサッカーには不可欠だ。
 でも、最初はいくらいい動きをしたってボールなんか思ったように回ってくるわけがない。そういうときは、俺はいつも心がけているのだが、気持ちの入ったディフェンスが効果的だ。頑張ってボールを自分で取れば、必ずボールに触ることもできるし、周囲に認められるための良い材料にもなる。頑張ってボールを2、3回取ってみて、確実に味方につなぐ。すると、誰かが、「Bien joué !!」なんて言ってくれる。日本で言えば、「ナイスプレー!」。そうするとしめたものである。次からボールが回ってくる。そうやってチームの中での位置を見つけることができた時には、とてもいい試合経験ができる。違うチームにいきなり行ってプレーすることの楽しさはここにある。いくらチームが違っても、サッカーはサッカーなのだから。自分が普遍的なある程度の実力を持っていれば、どこでもそれは通用する。例え相手が大きくても。要はサッカーをそいつより知っていればいい。そして、ある程度のボールさばきが思うように出来ればいい。

Le 08/05/2002
 今日と明日はまたまた労働者の休日で、店がほとんど閉まるらしい。でも、学校はある。最初、学校がないと聞いていたので、公園にサッカーをしに行く予定だったけど、行けなかった。日本からまた二人新しい留学生が来た。どっちも女の子である。留学生は女のこの方が多い。一人は同じレジダンスに、もう一人は学校の隣の寮に住むことになったらしい。その子の名前はチヒロという(もう一人の方は忘れてしまった・・・あまりにこっちの名前のインパクトが強かったので)。なんでも、店がどこかわからないし、閉まっていたりするので、ひもじい思いをしているというので、イーファンともう一人同じ時期に入学したチエという女の子(彼女も同じ寮でポーランド人とシェアをしている。今のところ、いつもこの三人で買い物とか料理をしたりしている。)と一緒に、スーパーマーケットに連れて行ってあげて、料理もご馳走してあげた(今回はイーファンが作った。もちろん家で。外食は高い!)。なんか、急に後輩ができたような感じだった。俺の生活も落ち着いてきたんだなと思った。最初のことを考えると・・・。スーパーマーケットに行っている間、俺は近くの公園でボールを蹴っていた。すると、小さい男の子が何か物欲しそうにこっちを見ている。俺はすかさずボールをパスした。そこから30分くらい一緒にボールを蹴った。胸トラップと、足の裏を使ったフェイント(ジダンがよくやる)を教えてあげた。話もしてみたけど、やっぱりむこうのほうが断然フランス語をうまく話す。あたりまえやけど。まだ8歳ということだった。でも、こっちの子のパワーはやっぱりすごい。ふとその子のお母さんがやってきて、「もう帰るわよ」という。その子が残念そうに「Au revoir.」と言ったのがとても印象的だ。その時俺は日本代表のユニホームだった。「なかた、知ってる?」「知らない。」 まあいいけどね。
 チヒロを三人で彼女の寮まで送って、自分たちの寮に帰ってきてから、今日は12時くらいまで三人で話した(英語8割仏語2割)。イーファンがいつか日本に来るらしい。そのときは俺の家に泊まる。んで、マレーシアに来るときはイーファンの家に泊まっていいだって。これはなんとなく実現しそうだ。なんか面白くなってきたなあ。マレーシアでは、イーファンの家は裕福なほうだ。とても貧富の差が激しい国。日本ほど差がない国はない。フランスの地下鉄にだって、いたるところにホームレスの人たちがいる。そして、僕たちは毎日のように紙コップを差し出される。それが、日常なのだ。僕は今までその中にお金を入れたことはないが、誰かが入れているのを見たこともない。日本のホームレスだと、向こうから、お願いします、と言ってくる人はいない。だから、フランスに来た当初はとても驚いた。  昨日、チエがアラブ系の少年4人組にMDウォークマンを盗られたらしい。とてもショックを受けていた。彼女はまだフランス語を始めて1ヶ月しか経っていない。それをいいことに、話しかけられて、MDを手にとられて、そのまま逃げられたという。昼間の3時に、しかも電車の中でだ。周りには他の大人もたくさんいたらしい。みんな知っているけど、だれも助けない。怖いからである。こっちにくると、アラブ系の人たちの良くない噂をたくさん聞く。サッカーをするときにしてもそうだ。みんな口をそろえて、「あいつらとサッカーをして勝つと集団で殴られるぞ」とかそういうことを必ずいう。今の俺にはすぐには理解できないような非常に大きな差別があるようだ。店にもよるが、アラブ系の人は出入り禁止としているところも多い。もちろん、なにもアラブ系だからといって、悪い人だけがいるのではない。差別の影響が行動にも出ているのだと思う。実際に話してみると、とてもいい人もいる。この差別にはフランスの大きな労働問題が関与している。フランス政府発行の雑誌には、W杯98での、多人種構成のフランスチームの優勝が差別を緩和するのに一役買ったのだという記述があったが、実際にはそう簡単になくなるようなものではないのだ。

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